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ロミシンそのに! 

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ロミオとシンデレラ――From a music, "Romeo and Cinderella" by doriko
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2.大人はもう寝る時間よ

 そういって、ね、と語尾で念を押したのは、2歳下の妹だった。部屋に入るなり、どっかりとベッドに腰を下ろした妹は、風呂から上がったばかりで重く垂れた髪を、いささか乱暴めにタオルで拭いた。なんのことかしら、と、彼女の顔を見るまでもない。
 お風呂から私たち姉妹の部屋にたどり着くには、リビングを経由して、パパとママの寝室の前を通る必要がある。――パパとママの寝室と、私たち姉妹の寝室が離れているのは、なんら不自然なことではないと思うのだけれど、この歳になってやっと今更、その意味がわかりはじめた。それは妹も同様で、その歳にしてはすこしませている(本人いわく『大人びている』)妹は、あからさまに面白そうな顔をしていた。

「覗きに行っちゃおうか」
「それは流石に趣味が悪いと思う」
「やだなあ、本気にしちゃって。これだからお姫様は」
「……もう! からかわないで!」

 私が机に広げた楽譜から目を離し、椅子の背ごしに振り向いて非難の声を上げると、ベッドに寝転がった状態の妹は、携帯を弄りながらカラカラと笑った。妹は、だいたいにおいて優等生的な私のことを『だいじにだいじに育てられたお姫様』と揶揄するけれど、私にいわせれば傍若無人な妹は『わがままいっぱいに育てられた王女様』だ。たしかに私は箱入りのような育ちかたをした覚えもあるし、妹をあまやかした自覚もあるけれど、『お姫様』と『王女様』の性格形成にはパパの過保護気味な愛情が大いに作用していると思う。むしろママは世間一般に比べて厳しめな感があるけれど、パパはそれを補って余りあるほど娘たちには甘い。
 もちろん、この家の中でパパにいちばん甘やかされているのは、他ならぬママなわけだけれど。

「でもさー、結婚して十年以上夫婦やってて、未だにあんなにナカヨシなのも珍しいんじゃない?」
「どうかしら。他のおうちのことは知らないから……」
「ていうか、パパもママもいい加減飽きたりしないのかなあ」
「……髪、ドライヤーで乾かした方がいいよ。貸してあげようか?」
「そのうち、弟か妹ができたりして」
「……リンちゃん!」
「ハイハイ、ゴメンナサイ。……ミク姉って潔癖よねー」

 ドライヤー貸して、と無邪気な笑顔でいう妹を、それ以上責める気にはならなかった。ドライヤーを手渡しながら、キャミソールとショーツだけの格好をした妹をまじまじと見た。最近の中学生は発育がいいときくけれど、ウチの妹はそうでもない気がする。身長は低い方だし、胸もわりとぺったんこだし(私も人のことはいえないのだけれど)。ほんとうにあのすらっと長身でスタイルの良いママの血をひいているのか疑わしくなる背格好だ。でも、くるくる変わる表情は同じ女の子の私から見てもやっぱりかわいいと思うし、はっきりものをいう性格も元気があって好もしいと思う。
 背後から、ドライヤー独特の、圧力をもった風の音がする。

「ねえ、リンちゃん、好きな人とかいる?」
「えー? なにー?」

 ぶうん、と、ドライヤーが止まる。
 部屋にちいさな静寂がうまれ、その静寂に、なぜか私は慄いた。

「ごめん、なんでもない」

 らしくないことをいった。失言に近い。顔があつい。きっと赤くなっている。「そういうこと」を根掘り葉掘り詮索するのは趣味じゃないのだ。友達と「そのような」話をしないわけではないけれど、私は曖昧に笑って適当な相槌をうって、彼女たちの話をきいているだけだ。だって、きっと、「他人の恋愛事情」なんていうものを好んで話の種にするのは、品がない女の子にみえるにちがいない。

「……ミク姉、恋バナとかきらいなんだと思ってた。なに、彼氏でもできたの?」

 ……聞こえているならききかえさないでよ! と言ってやりたかったけれど、言葉が喉につっかえてうまく出てこない。それよりも、見透かされたのに驚いて、うまく思考がまとまらなくて、

「なんで」

 それしかいえなかった。
 妹はきょとんとして、それから若干意地悪く口元をゆがめた笑いかたをした。……私は、この子のこの笑いかたが、ひどく苦手だ。なにか不安な気持ちになる。

「だって、今までミク姉がそーゆー系の話振ってきたことなかったから。で、どーなの?」
「きっ、きいているのは私、でしょ!」

 なんとか一言いい返したけれど、頭の中はやっぱりぐちゃぐちゃのままだった。声を荒げてしまったことにも、じぶんの声をきくまで気がつかなかったくらい。顔に熱が集まっている気がするのはなぜかしら? そういえばさっきから、ベッドサイドのキャラメル色をしたくまのぬいぐるみがいやに目につく。妹から香るシャンプーの匂いがとてもくすぐったい。舌が渇いて、なんだか飲み物が欲しくなって、すぐに台所まで駆け出したくなった。まるで五感が凍結されてしまったみたいに、一か所に硬直したまま動かない。それなのに、頭の中だけは嵐のようにめまぐるしく流動的なのだ。
 ふいに、楽譜に隠れた携帯電話から、メール着信用に設定していたメロディが鳴る。

「……メールの着信音、いつもと違うね」

 妹が、さっきと変らぬ歪んだ笑顔で机の方を見て、いった。それから、視線だけこっちに寄越して言葉を続ける。

「大丈夫、パパとママにはいわないよ。そのメールの相手が誰なのかとか、ミク姉が学校帰りにちょくちょく通ってるマンションに住んでるのが誰なのかとか、週末に友達と遊びに行くっていったあとに誰と一緒にいるのかとか」

 今度こそ、本当に、凍りつくような衝撃が脳内を駆け巡った。回りに見えないように、ずっと完璧に隠し通すことなどできないとは思っていた。けれど、今まではじょうずに隠してきたし、このままの状態を維持していれば誰にも悟られないはずだと自負していた。それなのに、こんなに近くの人間にここまで知られているとは思わなかった。
 まさか。なんで知っているの。いつ。見られた。どこから。
 ぐるぐると疑問符ばかりが舞う私をよそに、妹は、両親についてのいかがわしい妄想を口に出していた先ほどよりももっと楽しそうな顔をして、居住まいを正した。いや、正したというより、崩した、のほうが適切な表現だろうか。あぐらをかいた妹の足は、すらっとしていて生白く、からんだ様が妙になまめかしく、しかしそれはただの健康的な14歳の素足だった。だからねミク姉、と、至極明るい声で話しかけてくる妹の瞳が、輝いたように見えた。

「そのメールの用件が済んだら、久しぶりに、姉妹水入らず、腹を割って話をしましょうか」

 大人はもう寝る時間だけど、子どもはまだまだ寝る時間には早すぎる、でしょう?
 混乱しすぎると、突然、やけに頭の冴える瞬間がやってくる。妹の言葉に対して、微笑みで返事をするころには、もう腹も据わっていた。

 今夜は、何時まででも、話が尽きるところまで、どこまで話ができるかためしてみようか?

01<< To Be Continued... >>03 (C)KERO Hasunoha
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[ 2009/05/13 02:42 ] 小説系 | TB(0) | CM(0)

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