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ロミシンそのご! 

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ロミオとシンデレラ――From a music, "Romeo and Cinderella" by doriko
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5.優しくして

 ためらいなく呼び鈴を押して、扉が開いた途端に駆け込んで、その大きな胸に飛び込んだ。顔は涙でぐしゃぐしゃで、鞄はつぶれてくしゃくしゃで、頭も体もくたくただった。私は迷子の子どもが親を見つけたときのように必死になって彼にしがみつき、苦しくて胸が痛くなるまで泣き続けた。

「……ばかなことをしたとおもうわ」
「そうだね、すこし、君らしくなかったかも知れない」
「でも、パパのあの言い方はあんまりよ」

 彼が出してくれた湯呑であたたかく甘い緑茶を啜りながら(私は緑茶の種類にくわしくないが、彼がいちばんおちつくだろうと選んでくれた茶葉だ)、家を飛び出した顛末を吐き出すように彼にぶつけた。私が話をしている間、彼は隣で始終優しい目をして、ときおり私の頭をなでながら、相槌を打ち、うなずき、そしてすこしだけじぶんの意見を口にした。
 話をしながら、冷静になるあたまのなかで、なんて短絡的なことをしてしまったのだろう、という思いと、これくらいして当然よ、という思いが交錯する。うそをついていたのは、たしかに私に非がある。でも、うそをついていただけなのに、あんな風に詰られるのは納得がいかない。けれども、正直に全部話せないのはやはり引け目があるからか。いや、疚しいことなどなにもない、恋することが疚しいことだというのなら、この世の中はなんと罪深い人だらけなのだろう。
 否定詞ばかりの堂々巡りの中、ふと視線を泳がす。彼の部屋の内装はこぎれいでさっぱりしていて、それでいてどことなく和の香りが漂う部屋だった。木目のデスク、和紙のような色合いのラック、織物の敷かれたローテーブル、ちりめんのような手触りのソファ。私が初めてこの部屋に入った時、和洋折衷のいちばんスタイリッシュなところをつめこんだようだわ、と評すると、彼は、満足そうに笑ったのだ。部屋の隅の姿見は、私がここに通うようになってから置かれたものだ。前からあったのか、新しいものかはわからないが、枠が若竹色のグラデーションなのを見て、これは私のものに違いないとおもったし、彼もそのように振舞った。その姿見の前に置かれた鞄と紙袋は、数時間前にここにいた時よりも明らかにくたくた見えて、その様が自嘲を誘った。くたくたになっているのは、私のほうだ。

「それでも、私のことを心配して、黙っていてくれたのだね」
「迷惑には、なりたくなかったの。でも……」

 ここに転がり込んでいる時点で、迷惑も甚だしいのではないか、といいかけたところで、横から不意に抱きしめられた。視界が暗くなり、薄いシャツから彼の体温が伝わってくる。ぼんやり、顔のまわりが熱くなる。

「君の父上に、神威とお付き合いしています、と、いってくれてもよかったのだよ? 隠すのがつらいなら、隠さなくてもいい」
「でも、もし」
「カイトさんが、仕事に私情をもちこむような人だとおもうかい?」
「……わからないわ」
「すくなくとも、私の知っている彼は、そんなことでむやみに辛い評価をしたり斟酌したりする人ではないよ」

 あのパパならやりかねないかも知れないけれど、でも、たしかにパパの仕事に対する熱意とストイックさには、並々ならぬものがある。あまり仕事場を見に行かない私ですらそう思うのだ、一緒に仕事をしている彼がそういうのなら、そうなのだろう。

「あの人はいい人だ。いつまでも心配させておくのは可哀そうだよ」
「いいのよ、パパなんて放っておけば」
「そうはいかない。たとえ君がカイトさんを放っておいたとしても、メイコさんだって心配しているだろう」
「……ママだって怒っているかもしれないわ」
「それなら、リンちゃんだけにでも連絡しておいた方がいい。とにかく、誰かしらに居場所を伝えておかないと」

 たしかに、捜索願でも出されたらかなわない。それでも黙って抱きしめられていると、彼の腕の力が強まって、声が耳に近くなった。

「ミク。いい子だから」

 かすれるような、嘆願の色さえ帯びた憂いの声。おもわずきもちがとろけてしまいそうになって、そのせいか先ほどまでの気持ちのささくれも、全部こそげ落ちてしまった。走っている間の「もうどうにでもなれ」みたいな自棄がかった熱さも消えて、いまはやわらかな温もりが体の中を駆け巡っている。

「わかった、けれど……きょうは、もう、家には帰りたくない」
「……ミク?」

 心の中で転がしたことばが、すんなりと口をついて出た。というか、いちど咀嚼して吟味しようとおもったのに、勢いついてぽろっと出てしまった形にちかい。彼は一瞬絶句して、それから戸惑うように私の名前を呼んだ。その絶句の意味、彼の心中、そして自分が発したことばの孕む意味に今更ながら私も焦った。――これじゃあまるで。
 しかし、一度発したことばは戻らない。弁解がましいかとおもいつつ、私はつづけた。

「迷惑だって、わかっているわ。でも、あんな風にして出てきて、今更帰れない。あなたのいうこともちゃんとわかる。でも、帰るのだけはイヤ。だめなの」
「……でも、ミク」
「リンちゃんにちゃんと連絡も入れる。パパのことをわるくいうのもやめるわ。だからお願い」

 優しくして。
 顔をあげて、彼の顔を下から見上げるかっこうになる。彼の細い顎が、喉が、とてもきれい。彼はなにかいいたげだったが、すこし頬を赤くして私から視線を逸らした。

「……今日が金曜じゃなかったら、追い返しているところだけれど」

 明日はお休みだし、今回だけだよ? と、彼は私にちょっと困ったような笑顔で微笑んだ。

「ありがとう。大好き」

 思わず、彼に抱きつきなおした。感謝と申し訳なさでいっぱいだった。
 でも、それ以上に、うれしさがこみ上げた。
 はじめて、彼と過ごす夜だ。パパとママとはちょっと違う愛情をくれる彼と、一緒にいられる。
 一晩中、うんと甘えられる。うんと、優しくしてもらおう。

04<< To Be Continued... >>06 (C)KERO Hasunoha
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[ 2009/05/13 02:55 ] 小説系 | TB(0) | CM(0)

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