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ロミシンそのなな! 

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ロミオとシンデレラ――From a music, "Romeo and Cinderella" by doriko
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7.ねえ 私と生きてくれる?

 他人の家のお風呂は、どこかよそよそしい感じがする。友達の家に泊まりに行ったときや、修学旅行で入る温泉なんかも。どうも私は、自分の家以外のお風呂というのが苦手だ。お風呂に入る時間は、私が世界でいちばん無防備になる時間。もしかして、他人のお風呂のいごこちの悪さは、防衛本能のようなものがそう感じさせているのかもしれないとすら思う。
 でも、このバスルームを形成するすべてのものが、彼のものなら話は別だ。雰囲気はよそよそしいながらも、落ち着いた佇まいに、気が安らいだ。

(……神威さんのシャンプー、使ってもいいのかな)

 なにしろ、後先考えずに飛び出してきてしまったのだ。鞄の中には、どうがんばっても自分用のシャンプーやタオルが入っているはずはなく、ましてや――
(着替え、どうしよう)
 鞄をひっくり返してみても、出てきたのは今日学校に持って行った教科書やノート、ペンケースなど文具のほかは、楽譜のファイルと、ハンカチやあぶらとり紙やポケットティッシュなんかが入った自分のポーチがひとつ。それから友達から借りたままになっていた(というか、「可愛いんだからちょっと化粧してみなよ!」といわれ、半ば流されて受け取ってしまった)化粧道具の入ったポーチがころんと出てきたくらいだった。
 1泊するのも容認してくれた彼は大人の反応で、まあ十代の家出なんて往々にして勢い任せなものだよ、といってくれたけれど、やっぱり私には、こういう行動は気質に合わないらしい。一度冷静になってしまえば、後悔と反省しか出てこない。

「ミク?」
「ふぁ! はいっ?」

 扉一枚隔てた脱衣所から、彼に声を掛けられた。自分の思考に没頭していた私にとっては完全な不意打ちだったので、勢い妙な声が出てしまった。誰が見ているわけでもないのに、恥ずかしくて、風呂の中で身をちぢめる。そんな私の状況には気付かず(すりガラスは人類最大の発明だ、とおもうくらいに感謝した)、彼はいつもの声音で続けた。

「タオル、脱衣籠の上に置いておくから。あと、寝間着用に、シャツとジャージも出してきたから、よかったら」
「あ、ありがとう!」

 緊張しながら発したお礼の言葉は、彼の言を遮るようなタイミングになってしまった。不審に思われただろうか。いや、別になにもしていないのだけれど――。

「じゃあ、ゆっくり浸かるといい」
「う、うん」

 脱衣所から彼が出て行くのが、音でわかった。……彼はゆっくり浸かるといいといったが、なにもしないでお風呂に浸かっているから余計なことまで考えてしまうのではないだろうか。私は意を決して風呂から身を上げ、シャワーからお湯を出し、シャンプーの頭をプッシュした。
 バスルームからでたら、お風呂のお礼をいわねばなるまい。

「ありがとう、お風呂いただいたわ。ドライヤーもありがとう」

 お風呂から出てくると、彼はソファに凭れて楽譜を読んでいた。テレビは、昨年流行した映画を流している。たしかべたべたのラブロマンスだったとおもうが、友達と見に行こうと話をしていたのについに見に行けなかった奴だ。彼がふっと視線をあげたとき、私はもうソファの定位置――彼の隣に収まっていた。

「シャツ、すこし大きくないかい?」
「ええ。でも、これはこれで好もしいわ」

 貸してもらったシャツもジャージも、当然ながら男もので、やはり私には大きかった。半袖のTシャツのはずなのに、私が着ると袖が肘にかかるかかからないかの五分袖になってしまっている。彼は線の細い方だとおもうけれど、でもやはり男の人なのだなと実感して、同時に、自分が立派に女の子なのだということも再確認させられた。
 そうか、といって、彼はまた楽譜に目を落とした。
 彼の仕事は、歌をうたうことだ。もちろん、お仕事仲間のパパも歌をうたうひとだし、実はママも歌うたいだ(でも、ママは家事を理由に最近歌っていない。歌えばとても綺麗な声なのに)。

「次はどんな歌をうたうの?」
「ん……。そうだなあ……最後の最後まで信じ合うもののラブソング……なのかな……」
「そんなに解釈のむずかしい曲なの?」
「かんたんでないことはたしかだとおもう」
「でも、ラブソングというからには、きっと可愛らしい曲なのでしょうね」
「それは、聴いてからのお楽しみだよ」

 そういわれると俄然興味がわいてくる。曲解釈の資料だというしおりの挟まった本を手に取り、当該章を読んでみることにした。彼はなぜかお茶を淹れに行ったり、トイレに行ったり、私が2,3ページほど読んでいる間にずいぶんとそわそわしていた。最初こそ、もうすこし落ち着けばいいのに、とも思ったが、じきに私も物語に没頭し始めた。それからいくらもしないうちに、物語が最初の盛り上がりをみせたところで、彼が話しかけてきた。

「そういえば、ミク。さっきからおもっていたんだが……」
「なに?」
「その、やっぱりそのシャツ、大きいだろうから、コンビニかなんかでサイズの合うものを買ってこようか?」
「そんな、大丈夫よ。貸してくれただけでうれしいわ。大きいぶんには不自由はないし、わざわざ買わなくても」
「いや……うん、ミクはそうかもしれないけれど」
「?」
「肩、見えている……し、……その」

 すこし視線を右肩にやり、それから彼の視線を追うと、私は慌てて本を置いた(しおりを挟み忘れた)。大きいシャツというのは、襟ぐりも大きい。そのことに失念していた。いつの間にか、私の右肩には申し訳程度にシャツが引っ掛かっているだけで、キャミソールの黒いレースが顔を出していた。それだけでも恥ずかしいのに、彼の視線を追った先は、Vネックから申し訳なさそうに覗く胸元だった。慌てて肩を掻き抱いて、襟をととのえる。

「ご、ごめんなさい……」
「いや、あやまることじゃ……」

 そういえば、居心地のよさに忘れかけていたのだが、ここには二人きりで(しかも恋人同士で)、私ははじめてのお泊まりで(ここは彼の家で)、結構いい時間なのだ(現在時刻は22時32分、映画もそろそろクライマックスだ)。なんだか色々ととのっている気がする。何か起きるなら今日だ。何も起こらないはずはない。いやいや期待しているわけではないけれど! って、ああ、私は何を考えているの! これじゃあなんだかそういうことしか考えていない子みたいじゃないの! なるほど顔から火が出そう、というのはこういうことをいうのね……。
 彼がおもむろに立ちあがって、私は心ならずも身をすくめた。

「じ、時間は早いけれど、もう寝ておく?」
「う、うん……そうね……」
「それじゃあ、ミクは向こうのベッドをつかって。私はソファで」
「えっ、でもそれじゃあ神威さんが寒いわ。春先といっても夜はまだ冷えるのだし……」

 そういうと、彼はなにやら複雑な顔をして、ソファに座り直し、身を寄せてきた――というか、やんわりとバランスを崩されて、私はソファのひじ掛けに頭をぶつけた。

「か、神威さん……? あの、重いのだけれど……」
「そりゃあねえ、私がのしかかっているからねえ」

 そういう彼の目は、いつもの優しい光をともしていなくて、なんだか獲物を狙う鷹のような目だった(もちろん、間近で鷹を見たことなんかないけれど、比喩としてはとても適切だった)。まさか、ついさっきいかがわしい想像をしてしまったから怒ったのだろうか、いやいやそんな思考が伝播するなんてありえない――。私は動揺して二の句が継げなくなっているが、彼は淡々と唇を動かす。その動いている唇すら近い。動悸が速くなる。なにこれなんなのどうしたの――。

「こちらもいちおう健全な男子なので、女の子のやわ肌や洗い髪が近くにあると興奮するんだよ、ミク」
「は、はい……」
「わかっているかな? さっきの発言は『一緒に寝ましょう』って解釈できるんだよ? 『寝る』にもたくさん解釈があるのは知っているよね?」
「……あ、あのっ……!」
「これがもう少し若いひと相手なら、もうとっくにミクはオオカミさんに食べられているだろうね」
「か、神威さんっ」
「名前で呼んで」

 触れた唇があつい。

「あんまり無防備に男の人を誘っちゃいけません」
「そういうこと、したいの……?」

 絞り出した声は、合唱部の練習で鍛えた喉から発せられたとは思えないくらい弱弱しくて、か細くて、かすかな震えすら混じっていた。彼が驚いたように目を見開いて、でも、表情には訝しげな色を残した。

「あの、あなたのしたいようにして私は構わないけれど、でも、それなら……!」

 何かいわなければ。でも、このきもちを伝える言葉がみつからない。

――ねえ、それなら、私と生きる覚悟をしてくれる?

 耳の端に聞こえたのは、テレビから流れっぱなしの映画の、ヒロインが発したセリフ。私は、下から彼を見上げてその紫の瞳を見つめ、かのヒロインのような強気さも元気さもなく、まるで鷹に狩られる直前の鼠のように、声を発した。

「ねえ、私と生きてくれる?」

 それは、私と一緒に生きてください、という、願いにも似た、人生で初めての愛の言葉。

06<< To Be Continued... >>08 (C)KERO Hasunoha
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[ 2009/05/13 02:58 ] 小説系 | TB(0) | CM(0)

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