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ロミシンそのきゅう! 

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ロミオとシンデレラ――From a music, "Romeo and Cinderella" by doriko
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9.いい子になるよきっと明日から

 ――からだがあつい。
 夜は冷えるもの、布団もすこし厚めくらいがちょうどいいとおもっていた。けれど、ここ何回か彼の家に泊まるうち、そんな常識は、添い寝の時には通用しないのだと知った。

「神威さん」
「……まだ起きていたのかい、ミク」
「神威さんこそ」

 からだがあつい。けれど、離れるのは惜しい。布団の隙間から足だけ出してみたり、からだの向きを変えてみたりするが、なかなか布団の中の熱は逃げない。

「暑い?」
「すこしだけ」
「ミクは体温が高いからね」
「……私じゃないわ。体温が高いのはあなたの方よ」
「はいはい、そうだね」

 なによ、ばかにしているでしょう。そういう前に、布団が上方にはためいた。彼の長い腕が、布団の端を掴み、上下させるたび、布団の中につめたくて新鮮な空気が流れ込む。布団にあおがれた風が額に当たる。首から上は心地よいが、しかし、汗ばんだ首から下には、風はただの刺激となって襲いくる。思わず身を縮め、彼にすりよった。彼はそれで察したらしく、あおぐのをやめ、ふわりと私の肩に布団を落とした。
 広い胸に顔をうずめる。しっとりとした汗のにおいと、ボディソープのにおい。このひとのにおいが、私は好きだ。妙齢の男性のにおい。こんな風に、男のひとを至近距離でかぐわうことなど今までなかった私には、とても新鮮なにおいだ(すくなくとも、パパみたいにバニラやチョコレート、メープルシロップのにおいがしたりはしない。パパは甘党なのだ)。彼のせいですっかりにおいフェチになってしまったみたいだわ、とおもいながら、ぎゅうと抱きつく。

「ねえ、私はわるい子かしら」
「いきなりどうしたの?」
「なぜだか、ここ最近、そんなことをおもうの。こうしていると、すこしだけ背徳的な気分になる」

 しかし、それが甘美な魅力をもっていることも事実で、わけもなく背徳的な気分になったからといって、彼を手放す気など毛頭ないのだ。

「そういえば、今日は家出してきた理由をきかなかったね。今日はどうして家出してきたんだい?」

 「家出」と称して彼の家に転がり込むときは、かならず、家でどんなことがあって、どんなことに腹が立ったか、どうおもって「家出」してきたのか、話すことが通例になっていた。というか、話すことが暗黙のルールになっていた。

「……もう、ここに行くなっていわれたわ」
「カイトさんに?」
「そんなことをいうひとが、他にいるかしら」

 パパは、もうこれ以上がっくんに迷惑をかけてはいけないよ、と、いった。けれど、そこには、自分より彼の方に懐いている私へのあてつけと、彼への嫉妬しか読み取れなかった。これだけ何度も通っているのだ。いくら鈍感なパパといえど、私と彼の関係に薄々感づいているらしい。
 パパに初めて抗って、噛みつくように反論して、ここに転がり込んだ初めての家出をおもいだす。あのときは、胸が痛くて痛くて張り裂けそうで、それがなぜなのかは皆目わからなかったけれど、彼の胸で泣き続けた。いまなら、その理由がわかる。きっと何が痛かったって、こころがとても痛かった。彼のことが大好きで大好きで愛しくて、きっと私のこころはオーバーヒートしてしまったのだわ。風邪で熱をだすと、ときに関節が痛むように、きっと私のこころも、大きすぎる熱に耐えられなかったにちがいない。それくらい好きになっていたのは私のほうなのに。

「パパは、あなたのこと、嫌いみたい」

 でもそれ以上に、私のことも嫌いになったとおもう。こんな風に、ちょっとだけ化粧をして(結局、以前友達に借りた化粧道具は使い方がわからなくて、ここに来る前に学校でマスカラとチーク、それとリップだけ肌にのせてもらった)、甘いピンクのドット柄に黒いレースをあしらったすこし短めのキャミソールと揃いのショーツを身につけただけで、彼と一緒に布団にくるまる私など、パパは見たくないはずだ。もしこんなところを見られたら、どんな顔で怒るのだろう。パパの沸点はとても高いと踏んでいるが、その沸点を超えたら、パパはどんな風になるのだろう。想像もしたくない。

「その話を聞くと、ミクよりも私の方がわるい子みたいだな」
「! そういう意味じゃないわ、私」
「わかっているよ。それに、ミクはわるいことをしても反省できる子だ。今日わるい子でも、明日はいい子のミクだろう?」
「……あなたは、私を美化しすぎだわ。惚れた欲目というやつじゃないの?」
「あばたもえくぼ、かもしれないよ」
「同じ意味じゃないの!」

 あはは、と面白そうに笑う彼に、なんだか腹が立って、布団の中でぷいと背を向けた。すると、彼は後ろから私を抱きすくめて、肩に顔をうずめながら、唇を動かした。

「ほんとうだよ。惚れた欲目は抜きにしても、ミクはいい子だ。この世には、謝るべき時に謝れないおとなは多いし、反省すべき振る舞いなのに、まったく反省の色を示さないひとだってすくなくない。それなのに、ミクはちゃんと反省して、謝ることのできる子だ」

 彼の放つことばが、身体の芯まで沁みていくのがわかる。その魔法のことばをききながら、ふと、おもう。ああ、私は、ここに、許されにきているのだ、と。ここにいる今だけ、私は、彼にも、私にも、許されている存在でいられるのだ、と。

「そんなキミを、この腕にとどめておけるのは、なんてしあわせなことだろうと、おもうよ……」

 彼が呟くのを聞いて、私は身体を反転させる。キャミソールの肩ひもがずれたが、あまり気にはしないで、向かい合った彼の首にしがみつく。そうして、抱き締めなおすその腕も、優しく見つめるその瞳も、甘やかな魔法を紡ぐ唇も、すべて、私を許しているのだ。私は、彼と共にここにいれば、沈んだ気分も、憂鬱な思いも、すべて消し去られるという魔法にかかっている。

「ちゃんと、あなたの期待に添えるようないい子になるわ、明日から。でも、今日はわるい子の私でもいい?」

 その変身ぶりは、まさに、おとぎ話のシンデレラのようで、私は、ずっと魔法がとけなければいいとおもいながら、彼の胸に抱かれ続けるのだ。

08<< To Be Continued... >>10 (C)KERO Hasunoha
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[ 2009/05/13 03:02 ] 小説系 | TB(0) | CM(0)

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