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ロミシンそのじゅう! 

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ロミオとシンデレラ――From a music, "Romeo and Cinderella" by doriko
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10.それは首輪でしょ

 彼の家のベランダに面した窓、そこにかかるすだれの隙間から、光が漏れている。何時だろうか。けだるく重い身体を上げる気力もなく、私はぼんやりと天井を仰いだ。視線だけで時計を追うと、短針が既に9の文字よりも上に見える。ずいぶん長いこと眠っていたらしいが、正確な睡眠時間はわからない。というか、昨夜、何時に眠りについたのか覚えていない。
 下腹に鈍い痛みがある。じわじわと蝕むような痛みは、身体のだるさに拍車をかけていた。

「――おはよう、ミク」
「おはよう……」
「まだ眠いかい?」
「すこしだけ。なんだかだるいわ。動きたくない」
「そんな恰好で寝るからだよ」

 わかっているくせに、このひとは。余裕の笑顔で私の頭を優しく撫でた彼は、既に布団から出ていて、きちんと着替えてすらいた。私はまだ昨夜のままの恰好だというのに。隙のないひとだ、とおもう。そこがとても好もしいのだけれど、私にはない大人の雰囲気が、すこしだけうらやましい。

「ミク、ちょっとこっちを向いて」
「なあに?」

 私は、上半身を起こして、ベッドの端ににじり寄る。彼は、ベッドサイドのデスクの上から何かを拾い上げ、私に向ってかかげて見せた。逆光で一瞬、それが何なのかわからず、目を細めた。

「プレゼントだよ」

 彼の差し出す手に握られたそれを受け取るまで、それが何なのかがわからなかったけれど、私は、自分の手に落ちたそれを見て目を見開いた。彼がプレゼントだといったそれの正体は、ありきたりな大きさの、ありきたりな重さの、ありきたりな銀色の、でもこの世でいちばんとくべつな鍵だった。
 わかっているとおもうけれど、これはウチの鍵だよ、と、彼がいった。
 開いた口がふさがらない、という現象は、比喩でもはなく、現実にありうることだ。現に、私がいまぽかんと口を開けている。そしてその顔は漫画みたいに、さぞおかしい顔になっていたにちがいない。だって、彼が、このうえなく満足そうに相好を崩している。

「どういう風の吹き回し?」
「おや、自分から欲しがっておいてご挨拶だね」

 彼は、私を部屋に招き入れることはあっても、決して私に部屋を開けさせようとはしなかった。私も、欲しいとこぼすことはあっても無理にせがむようなことはなかったし、まだ私に鍵を預けるべきではないとおもっている彼の考えは尊重すべきだとおもった(なにせ私は、彼に比べればまだまだ子どもなのだから)。それに、私がこの部屋の鍵を持っていないこと、それ自体が「家出」の抑止になっていたといっても過言ではない。つまり、この部屋の鍵が私の手にあるということは、彼のいないときにも「家出」ができてしまうということであって、それは彼にとってもあまり望ましいことではないのではないだろうか。それが、いきなりどうしたことだろう。

「最近は、滅多な理由で『家出』をしてこなくなったからね。もうそろそろ鍵をあげてもいいかなとおもったのだよ」

 たしかに、最近は家出の頻度も減っている――パパとあまり話さなくなったからだろうか、それとも、私がパパの小言を聞かなくなったからだろうか。どちらにしろ、よっぽど大きな理由がなければ、学校帰りに部屋に寄ることはあっても、「家出」レベルまではいかなくなっているのが現状だ。

「ミクも大人になったみたいだし、なにより、もう、私が、キミを子ども扱いできない」

 ふわりと抱きかかえられて、改めてその意味を咀嚼する。

「……いつでも、来ていいの?」
「ああ」
「いなかったら、帰ってくるまで待っていていいの?」
「うん」
「勝手におうちに入って、お夕飯作ったりしているかもよ?」
「それは嬉しいことだなあ」
「……もしかして、最近この部屋でゆっくりしていなかったから、さみしかった?」

 とても。
 耳元でささやかれて、身体の奥がぎゅっとつままれたように熱をもつ。なんだ、こどもみたいね。そういって抱きしめ返すと、キミがおとなになったんだよ、と返事がきこえた。私をこんな風にしたのはあなたなのに、とは、いわなかった。求められることがうれしいことだとは、もうとっくの昔に学んでいる。
 私は、彼から身体を離し、首にかけていたアクセサリー(これは、自分で買ったものだ)をチェーンから外した。銀色の鍵を手にとり、その頭を鎖に通してから、かるく振ってみる。アクセサリーのチェーンだから、重さに耐えきれずに切れてしまうだろうかとおもったが、意外に頑丈そうでほっとした。首にかけなおして、私はあらためて彼の方を向く。銀に輝く鍵を細い鎖に通して、首から下げた私は、まるで飼い犬になったかのような気持ちだった。けれど、彼に飼われるのならば本望だ。

「こうすれば、なくさないでしょう?」
「ミク……」
「ありがとう。だいじにするわ」

 お礼に、唇に触れるだけのキスをひとつ。驚いたけれど、こんなにうれしい贈り物もない。彼の舌が唇を這って、それに応えようとしたとき、

――ぴんぽーん

 呼び鈴が鳴った。
 私は反射的に身を強張らせて彼の目を直視する。

「……無粋な客だね」

 彼は、そう呟いて、玄関へ向かった。私は布団をかぶってやり過ごそうとしたが、なぜか、好奇心がはたらいて、玄関にいちばん近い扉から、彼の姿を覗き見ていた。彼がドアチェーンを外し、鍵を開けて、ドアノブを捻る。

「ハロー、カムイ」

 訪ねてきたのは女のひとだった。綺麗な長い髪の、可愛らしさと美しさの黄金比率を保ったまま大人になったような、そんなひと。
 彼女はニコッと素敵な笑顔で笑い、彼に飛びついて、頬にキスをした。

「ルカ……!」
「あんまり遅いから、迎えに来てしまったわ」

 彼女の笑顔と裏腹に、私が凍りついたのは、いうまでもない。

09<< To Be Continued... >>11 (C)KERO Hasunoha
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[ 2009/05/13 03:03 ] 小説系 | TB(0) | CM(0)

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