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ロミシンそのじゅういち! 

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ロミオとシンデレラ――From a music, "Romeo and Cinderella" by doriko
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11.叱られるほど遠くへ

 長い髪とうすい桃色のワンピースを翻して、突然訪問してきた女のひとは、今度はゆっくりと彼の首に腕をまわした。彼は別段驚いた風もなく、その行為を受け入れている。ふたりの顔が近づく。その光景は、とてもよくできた一枚の絵画を見ているようだった。力強さの中にもどこか儚さと憂いを含んだ眉目秀麗な男性と、美しさの中にも妖艶な雰囲気を醸す美女の、似合いすぎる組み合わせを――私は、混乱して見ていられなかった。

「来るな、といっただろう!」
「あら、わたくしとの約束をすっぽかそうとするカムイが悪いのですわ」
「だから、時間を遅らせてくれと……!」
「そのキュートな靴のお客さんがきているからかしら?」
「っ……! それは」
「関係がないとでもおっしゃって?」

 聞きたくないのに、彼と彼女の会話を拾ってしまうこの耳が憎い。耳をふさいで、足音を立てないようにベッドルームに戻り、布団をかぶって胸の痛みに耐える。動悸が速くなる。どくどくと流れる血の音が耳にうるさい。寒くもないのに身体が震える。暑くもないのに汗がにじむ。
 なに。なんなの、あの女のひと。なぜあんなに普通に抱きついているの? なぜ彼はそれを止めないの?
 見てはいけないものを見てしまった、というより、見たくもないものを見てしまった、という気持ちに近い。それは、パパとママの情事の声をきいてしまったり、妹と彼の逢瀬を盗み聞きしてしまったりしたときと同じ、けれどもそれよりももっと強い感情。興味と嫉妬、憧れと憎悪がまじりあってどろどろになった、とても気持ちが悪くなるこの気持ち。
 胸に当たった鍵を握りしめる。彼にきけばいいのよ。そうよ、知りたいことがあるのならば、直接彼に訊けばいい。ほどなく彼はこの部屋に帰ってくるだろう、そうしたら――

「ミク、すまない。仕事先の方が見えた。キミの父上じゃないから安心してくれていいけれど」

 布団の中にいる私に、彼が声をかけた。私は被っていた布団から顔を出す。彼は、ひどく困った顔をしていたが、私が玄関での光景を盗み見ていたことには気付いていないらしかった。

「すぐ、打ち合わせに出なくてはいけなくなってね。午後からの予定にしてくれと頼んだのに、ききいれてくれなくて」
「そ、そう……」
「一緒にブランチでも、とおもったんだが……」
「私なら大丈夫よ。それより、お仕事の方、お待たせしては申し訳ないわ。鍵も貰ったらからちゃんと鍵もかけて帰れるし、心配しないでいってらっしゃいな」

 心底申し訳なさそうにいう彼に、質問する気も責める気も起きなくて、私は精一杯の虚勢を張った。私の言葉を聞いた彼は、すこしだけ安堵の表情を残して、すまないとありがとうを繰り返し、額にキスを落とした。

「まだ身体がだるいなら、玄関まで見送ってくれなくてもいいから」
「……いいえ、お見送りするわ」

 その言葉を、額面通りに心配されていると、受け取ってもいいのかしら。そんな疑問が頭をかすめ、喉にせりあがってくるが、なんとか飲み込む。玄関まで一緒に行くと、桃色の女のひとはいなかった。行ってくるよ、という声に、行ってらっしゃい、と返事をした。彼を送り出して、扉を閉めて、鍵をかける。扉の外から、遅くてよカムイ、と、例の女のひとの声が聞こえた気がするが、空耳であってほしい。最後にドアチェーンをかけて、私はのろのろとベッドルームに足を運んだ。よれた布団を直してから、普段着に着替える。
 彼は、客人を見るなり来るな、と、いった。それはなぜだろうか。約束をすっぽかそうとしている、と、あの女のひとはいっていた。打ち合わせの予定、と、彼はいった。それははたして本当だろうか。様々な疑心が渦になって襲いかかる。その疑心の先にある答えには、辿り着きたくないのに、勝手に頭が思考を進める。
 彼は、私に、彼女の存在を知られたくなかったのではないだろうか。それなら、彼女はいったい彼のなんなのだ。ただの仕事相手、というには、あの抱擁とキスと至近距離の説明はどうする?
 ということは、まさか――。
 いやな想像ばかりが脳内を駆け巡り、心臓は暴れまわるような激しさで血を送り出す。

「や、だぁ……」

 どうかしている。今日見たばかりのひとが、自分よりもおとなで、きれいで、彼に似合いのすてきな外見だったからといって、彼が他のひとに懸想しているとおもうなんて。
 自分がこんなに嫉妬深いとはおもわなかった。同時に、彼のことを信じられていないのか、とおもうと情けなくなってきた。しかし、先ほど玄関で見た光景がまぶたの裏にちらついて離れない。彼らの会話を思い出すたびに、不安を掻き立てられる。気持ちが悪い。嘔吐感すら催してきたが、動けない。動きたくない。ため息の次に漏れたのは、嗚咽だった。
 涙を流れるままにして、着替えたばかりだというのに、私は再び布団に身を投げた。もう、余計なことなど考えずに、眠ってしまいたかった。思考を停止させてしまったほうが、どれほどらくになれるだろうかとおもった。

 ――夢を見た。
 桃色の彼女が、彼と腕を組んで歩いていた。見ていられなくて、目を逸らした。
 目を逸らした先には、カフェで楽しそうにお茶をする彼と彼女が見えた。笑っている彼を見るのがいやで、逃げ出した。
 逃げ出して待ち受けていたのは、抱き合った状態の彼と彼女。彼女は完璧な微笑みを浮かべて、彼の瞳を見ていた。抱き寄せられる彼女の身体。彼との距離が縮まる。
 目を閉じた。耳を塞いだ。それでもなぜか映像は視覚に入ってきて、否応なくその先におこなわれる行為を、私は見るはめになった。
 大きな叫び声が、私の喉を通って吐き出された。
 ――そこで、私は目が覚めた。

「あ、ぁ……?」
「ミク? 大丈夫かい?」

 彼の言葉を最後まで聞かずに跳ね起きた。時計は3時を回っている。彼が帰ってきているのも不思議ではない。目の周りがかさかさするのは、涙の跡だろうか。それにしても、頭が痛い。彼が心配そうに私の顔を覗きこむ。夢の中の彼とはまったく違った苦い顔。直視できなくて、夢の中の私と同じように、現実の私も彼から目を逸らした。

「……ミク?」
「……ねえ、きいてもいいかしら」

 自分の口から紡がれた声は、驚くほどに平坦で抑揚がなかった。

「だれ、なの。あの、きれいなおんなの人」

 長い髪のおんなの人。――あのひとは、あなたのなんなの?
 彼の息をのむ音がする。その一瞬の間が、私の仮定を肯定しているようで、眠る前の胸のむかつきが蘇る。

「彼女は、いま一緒に仕事をしているひとだよ」
「ただの仕事仲間に、抱きついたりキスしたりするの?」
「……!」
「玄関で、あの女のひと、やけに近い距離で話をしていたじゃない。なんなの、あれ」
「見ていたのか」
「見られちゃまずかったかしら?」

 これは、まずい。最初に家出をした時にきっかけになった、パパとの言い争いを思い出す。こころからあふれた言葉が、脳を素通りして口から出てくる感じ。今の私は、この愛しいひとに、どんなにかひどいことをいってしまうだろう。

「知らないことがあるのならば、知りたいとおもう。普通でしょ? ほかならぬあなたのことだもの、大好きなあなたの……!」
「ミク、なにか誤解しているね? ルカは――」
「ただの仕事仲間? じゃあ、なぜ抱きつかれても平気な顔でっ……!」

 じわりと涙がにじむ。どうしよう。このままでは、彼に嫌われてしまう。器の小さい子だと、ききわけのない子だと――まだまだ子どもだと、おもわれてしまう。

「あなたは、私だけ抱きしめてくれればいいの――!」

 口に出すと、絶望的な気持ちになった。
 なんだ。単に私は、彼を独占したいだけなのだ。
 私は彼に首輪をつけられたつもりでいて、その実、私も彼に首輪をつけたいとおもっていたのだ。
 抱きかかえようとする彼の腕をすり抜けた。その瞬間、なにかに首のチェーンが引っ張られて、一瞬だけ苦しくなったが、チェーンはあっさりと、こともなげに切れて鍵とともに床に落ちた。ああ、やっぱりアクセサリーのチェーンは弱いわね、なんておもいながら、私は、彼に追い付かれる前に玄関に辿り着き、靴――そういえばあの女のひとに「キュートだ」と褒められたけれど、ぜんぜん嬉しくない――も履かずに外に出た。

 どこでもいい。遠くに行きたい。後で叱られてもいいから、彼を傷つけないくらい遠いところに行きたい。その思いだけで、昼の町並みの中を、私は走った。

10<< To Be Continued... >>12 (C)KERO Hasunoha
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[ 2009/05/13 03:05 ] 小説系 | TB(0) | CM(0)

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