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ロミシンそのじゅうに! 

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ロミオとシンデレラ――From a music, "Romeo and Cinderella" by doriko
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12.だってもっと愛されたいわ

 居場所がなくなる不安感というのを、私はついぞ経験したことがない。ドラマや漫画なんかで、いじめに遭った子やたいせつなものをなくしたひとが、「帰る場所なんかどこにもない」「この世界に私の居場所はない」なんて台詞をいうことがあるけれど、それは現実には――すくなくとも私の身には関係のないことだとおもったし、お涙ちょうだいなのかしらとおもうことすらあったのだが。
 やみくもに道を選んで足が痛くなってきたころ、私は、学校からも、自分の家からも、もちろん彼の家からも程よく遠い住宅街まで来ていた。見慣れない景色の一角に、ちいさなちいさな公園をみつけて、そのベンチにへたり込んだ。休日だというのに人通りは少なく、公園に立ち寄る人もいない。私は俯き、深いため息をつきながら、泣きすぎて疲れた目を抑え、襲い来る頭痛に耐えつつ思考没頭していた。まぶたの奥まで届く光が、日が暮れようとしているのを教えてくれるけれど、私はそのままベンチに座って動かなかった。
 居場所がなくなる不安感は、もっとずっと苦しいものだ。たとえば皮膚の表面だけ焼かれるような、あるいは足の先から徐々に凍りついていくような、そんなじわじわとした痛みを伴うものだった。きっと、脚本家のひとたちは、この孤独感を描き切れていないのだわ。気分と一緒に、視線も一緒に下へと落ちる。土に汚れたハイソックスが、今の自分のみじめさを助長しているようだった。

(……どうして、うまくいかないのかしら)

 前よりも、感情の制御が下手になった気がする。我慢できなくなった。けれど、もしかしたら、彼をふくめた周りのひとたちの厚意に甘えていただけなのかもしれない。ここ最近、私は、他人から受け取ることばかりを考えてはいなかったか。家族に、彼に、許してほしい、愛してほしいと思っていた。でも、そのために自分が起こした行動といえば――ああ、もしかして私はとんでもなく愚かだったのかしら。こうして自分の心をひも解いてみると、どんなにきれいに飾り立ててもどろどろと飲み込むような、そんなきたない感情が澱になっている。
 公園の入り口に、車が停まったのが、視界の端に映った。ばたんと車の扉が閉まる音、駆け寄ってくる軽い足音、その後に続くゆったりとしずかな足音。

「――ルカ姉、ほら! やっぱり、あのひとだ!」
「ほんとうでしょうね、レン。人違いだったら容赦しませんわよ」
「間違いねえって! ……たぶん」

 足音と話し声がこちらに近づいてくるのを聞いて顔を上げると、そこには、いつか自分の家の前まで妹に会いに来た少年と――桃色の彼女がいた。ぞわりと背筋が凍る。

「……カムイのいっていた特徴と合致していますわね」
「あな、た……」
「やっとみつけましたわ、じゃじゃ馬のお嬢さん。――レン、車から履くものを」
「おう」

 結われた後ろ髪が尻尾のように跳ねて遠ざかっていくのを見送って、残されたのは、彼女と、私。彼女の表情には、数時間前に見た完璧な笑顔など欠片もなく、瞳の奥には冷たい光が宿っていた。怒気すら含んだ彼女の声と立ち居振る舞いに圧倒されて、私は、彼女に視線を固定したまま硬直してしまった。――怒れる美人が、こうも迫力のあるものだとは。いや、ママもきれいだし怒ると迫力どころの話ではないので、気圧される感覚は知っていたのだけれど、このひとは、なんというか、どこか女王様然とした冷たさをもつ美人だった。

「……いま、わたくしの弟がシューズを持ってきます。とりあえず、そのソックスをお脱ぎなさいな」
「あ、あのっ……!」
「まさかひとりで脱ぎ着もできないなんて、いいませんわよね?」

 眼光が一層するどくなり、私は今いおうとしたことすら忘れてしまった。いわれるままに素足を空気に晒し、汚れを内側に巻くようにしてハイソックスを畳む。すぐにサンダルを持った少年がかけてきて、私の足元に置いた。履け、と、視線が促すままに、私はプラスチック地の穴あきサンダルに足を差し入れた。

「レン、そこのお嬢さんと一緒に、先に車に戻っていなさい。わたくしはカムイに連絡を入れます」
「はいはい、了解。行こう、えっと、ミク、さん?」

 携帯電話を操作している彼女を尻目に、少年は私を立たせ、車へとエスコートする。その姿にすこしだけ妹が重なったことで、先ほど気圧されて出てこなかった疑問を投げかけた。色々なことが疑問で混乱する頭が、たどたどしく言葉を選ぶ。

「あなた、リンちゃんの……?」
「あ、えっと、その、オレ、レンっていいます」
「なぜ、あのひと……」
「あれはオレの姉ちゃん」
「神威さんは……」
「ああ、なんかそのひとから頼まれたんだって、探してくれって。そしたらリン……あ、えっと、リンさん……? ちゃん? が――」

 拙い質問と、簡潔な回答の応酬を要約すると、つまり、こういうことになるらしい。
 私が部屋を飛び出した後、私を見失った彼は、私の家に連絡をしたらしい。しかし、私は家に帰っておらず、行き先のアテもない。靴を履いていないことから、近くにいるだろうと探している間、さっきまで一緒に近所で打ち合わせをしていたルカさん(というのが、レンくんの姉であり、桃色の彼女の名前だ)にも協力を仰いだのだという。しかし、ルカさんは私のことを知らない。そこで、レンくんの携帯に、妹から私が行方不明だとメールがくる(しかし、その文面はあきらかにふざけていて面白がっていた)。彼とルカさんが話していた内容と擦り合わせると、彼の探している人と、行方不明の姉というのが、一様に私のことを指していると気づき、姉弟ふたりで私を探しにでたのだという。

「ごめんなさい……」
「あ、でも、ウチの姉ちゃんも、オレに靴用意させるくらいだ……ですし、探す気満々だったみたい……ですし」
「あの、無理に敬語じゃなくても、いいですよ……?」
「す、すいません……とにかく、姉ちゃんはあんなだけど、ミクさんのこと心配してたんだ」
「『あんな』とは、ずいぶんご挨拶ではありませんの、レン?」

 運転席のドアが開いて、するりとルカさんが滑り込んでくる。エンジンをかけ、ギアをドライブに入れ直す頃には、後部座席のレンくんはすっかり黙ってしまった。ルカさんはこちらをまっすぐ向いて、宣言した。

「これからあなたを家まで送り届けます。シートベルト、しっかりとしてくださいね」

 はいと返事をした途端に、車が発進する。あわててシートベルトを締め、公園で言えなかった言葉の続きを、脳みそから絞り出す。
 ルカさんと神威さん、って――どういう関係なんですか。
 とは、さすがにストレートすぎて訊けない。が、なにか切り出さなければ、沈黙のこの時間がとても居心地悪い。

「――あのっ!」
「――CDを流しても、不快ではないかしら」
「……はい」

 声を出すタイミングが全く同じだったが、威圧感にあてられたのか、なぜか言葉を譲ってしまった。こういうときは、弱気な自分がいやになる。車内に流れ出したのは、ひかえめなドラムス、やや攻撃的な、しかし繊細なベースギターの唸る音。やがて聞こえてくる、二声の、咆哮にも似た歌声。どちらも、間近で聞いたことのある声だ。その声が誰のものかも、もうわかっていた。

「……これ……」
「うたっているのは、わたくしとカムイですわ」
「すごい……」
「プロですもの。これでも仮歌ですのよ」

 仮歌、というのは、曲の練習撮りのようなものだ、と、パパがいっていた。これが仮歌だなんて、完成版はどれほどクオリティの高いものになるのだろう、と、身震いがした。赤信号に差し掛かり、車はゆっくりと停車する。

「――あなたは、妙な勘違いをしているようだから訂正しておきますけれど、わたくし、カムイとはこれをうたった仲でしかありませんのよ。正直、カムイとはあまり仲が良いとはいえないですわ」
「でっ、でもっ……!」
「あのときは、わたくしとカムイが仲良くしていないと、機嫌を損ねる方が一緒にいらっしゃいましたから」

 ルカさんいわく、今日の打ち合わせは、プロモーションビデオの撮影についての件だったそうだ。PVの撮影監督が、それはそれはルカさんと彼のことを気に入っていて、ルカさんと彼がよそよそしくしているのをあまり快くおもわない類のひとだったらしい。機嫌を損ねると厄介なので、そのひとの前では振りだけでも仲良くしようとしてのことだったそうだ(彼を迎えに来た時も、私の見えない位置にその監督さんとやらがいたらしい)。信号が青に変わり、車のエンジンが唸った。
 流暢な彼女の説明が一区切りしたところで、思い切って尋ねる。

「そ、それなら、嫌いなのに、き、キス、する必要もっ、ない、じゃないですかっ……」
「あら、あれは挨拶ですわ」
「なに……え?」
「わたくし、海外生活が長かったものですから、挨拶といえば会釈や握手よりもハグやソフトキスですの」
「だから姉ちゃん、それはココじゃあ勘違いされっから、いいかげん直せっていったろ……」

 珍しく会話に入ってきたレンくんだったが、バックミラー越しの視線に一喝されたようで、またしても沈黙に入ってしまった。

「……弟にも、このようにいわれていたのですけれど、今回の件では、さすがに改めなければとおもいしらされましたわ」
「そ、それじゃ……! ええっと、あの、私……!」

 要するに、ただの勘違いでルカさんを嫌って、彼を責めて、自己嫌悪に陥っていたということか。なんだそれ。恥ずかしすぎる! 顔から火が出そうなほど恥ずかしくて、私は勢い込んで謝ろうと運転席に向かって叫んだが、謝罪の言葉を述べる前に、ルカさんの澄んだ声が私の話を遮った。

「いらぬ誤解を与えたわたくしの落ち度です。あなたのせいでないところもあります。ですが、わたくしも勝手な勘違いで嫌われて少々不快でしたので、大人げないことをしました。お互い至らぬところもあったし、お互いにいやなおもいをしましたので、これでおあいこですわ」

 さっぱりと言い切るルカさんがとても格好良く見えた。けれど、どうしたって私の落ち度の方が大きいし、不快なきもちにさせてしまったのは私の方だ。どうしても謝りたくて、でも、と口を開くと、わたくしかんたんに謝るガキはきらいですわ、というつぶやきが漏れた。ルカさんは、格好良いだけでなく、とても聡明で、寛大な人物のようだ。……後ろから、ルカ姉は謝っても許してくれないもんな、というレンくんの声が聞こえたが、聞こえないふりをした(たぶん、その方が彼にとってもよかったにちがいない)。
 路地を曲がると、見知った通りに出た。

「そろそろ家に着きますわね。あの青いのもカムイもどうでもいいですけれど、ねえさまにご心配をおかけしたことだけは海より深く山より高く反省なさい」
「? ねえさま?」
「……メイコおねえさまのことですわ」

 驚いた。このひとは、パパだけでなく、ママのことも知っているらしい。
 家の前に、彼の車が停まっているのが見えた。ああ、叱られるのだろうな、と、おもうと、気分が滅入るが、それ以上に、ルカさんの言葉に慰められているのを実感していた。彼の車の後ろにつくように、路上に車を停車させて、ルカさんはいった。

「わたくし、これからまた用がありますの。ねえさまにお会いできないのは心苦しいですが、このまま行きますわね。そのシューズはどうせ弟のものですので、いつ返して下さってもかまいません」
「ちょ、ルカ姉勝手に……」
「ルカさん、あのっ、いろいろ、ほんとうに、ありがとうございます!」

 車を降りるときになって、やっと口から出たのは、謝罪ではなく感謝の言葉だった。ルカさんは驚いた顔で私を見つめ、そして、今の今まで私に向けられることのなかった、最上級の笑顔で、応えてくれた。

「――せいぜいカムイと一緒に、怒られてしまいなさい」

 わたくし感謝されるのもやぶさかではないですわ、というつぶやきが、聞こえそうな笑顔だった。

11<< To Be Continued... >>13 (C)KERO Hasunoha
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[ 2009/05/13 03:07 ] 小説系 | TB(0) | CM(0)

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