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カイメイはジャスティス! 

ピアプロにはUPしてたけどこっちにUPしてなかったので、UPします!
ぼんやりとカイメイです! 該当カップリングが苦手な方はご注意ください。

yanagiPの「PASSIONAIRE」が好きすぎて、ティンときて書いたものです。楽曲「PASSIONAIRE」を
モチーフにしていますが、yanagiP本人とはまったく関係ございません。

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PASSIONAIRE――From a music, "PASSIONAIRE" by yanagi
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 ――――Move your body!

「マスター、この曲、すっごくたのしい!」
 ホイッスルからはじまるその曲は、ボーカロイドの楽曲にはなかなか珍しいラテンポップ。最近耽美的な曲やロック・メタルなどへヴィーな曲ばかり歌っていた私をも開放的にさせる魔力を秘めていた。歌い終わってから、おもわずマスターに向かって言うと、マスターはにっこり笑って満足そうに頷いた。
「よかった。めーこさんには最近エロいのばっかり歌わせていたからねー。気分転換になる?」
「新鮮です、すごく。踊りたくなる」
「めーこさん、汗だくだね」
 言われるまで気付かなかった。相当はじけて歌ったからだろうか。ちょっぴり恥ずかしい。
「休憩いれようか?」
「いえ、大丈夫です。むしろもっと歌いたいです」
「さすがめーこさん。じゃ、ちょおっと調声しようかね。えっと……」
 マスターが私に付きっきりになるのはひさしぶりのこと。最近(というか、ルカがきてから)は、こうして一日中構ってくれることも少なかったのだが、マスターは私のことを見捨てていなかったらしい。……まあ、モノを捨てることのできないマスターが、誰かを見捨てるなんてありえないのは、もうすでに証明されていることなのだけれど。それでも、こんな素敵な曲までくれるなんて、今日はなんていい日だろう。
 日が暮れるのが早く感じ、一日が終わるのがもったいなかった。

「ただいまー」
「あっ、おかえりメイコ姉!」
 マスターのところから家に帰ってくる音を聞きつけたのか、ソファに座っていたリンがテレビから顔をそらして私の方を向いた。
「おかえりなさい、ねえさま! 今日は遅かったですのね。わたくし、さみしかったですわー!」
 次いで、ソファから立ち上がって飛びついてきたのは、ルカだった。最近家に迎え入れられたばかりだが、もう家族の一員として溶け込んでいる。
「あっルカ姉ずるい! メイコ姉、リンもぎゅーしてー!」
「はいはい、もう……ふたりともいくつよ?」
「愛に年齢は関係ありませんわ!」
 こうしてスキンシップをするのは、すこし気恥ずかしかったりくすぐったかったりもするが、決してきらいな訳じゃない。本当に、私はあったかい家族に恵まれているとおもう。
「晩御飯はなにかしらね?」
「今日のお当番は初音と鏡音のリトルブラザーですわー」
「なんかミク姉がすんごい勢い込んで食材買ってきてたから、ちょっとわくわくしてるんだよねー」
「甘いわ、鏡音。初音がお当番の時に、マトモなディナーができたことがあって?」
「でも、今日はレンが一緒だから大丈夫だとおもうね」
 ふたりで夕食談義をしている妹たちを尻目に台所を覗くと、ミクとレンが流しとコンロを往復しながら奮闘していた。それまでフライパンに一心していたのだろうミクは、足音で気づいたらしく笑顔で私の方に振り返った。
「お姉ちゃんお帰り!」
「メイコ姉おかえり、ほら、ミク姉よそ見すんな!」
「今日はねー、あんかけチャーハンなんだよー。ルカちゃんの曲でかわいいチャーハンのPVがあって――」
「だからミク姉手止まってるって! 焦げるから!」
 レンから叱責一喝、ミクはあたふたとフライパンに向き直った。男の子は料理にこだわるというけれど、うちも例外ではないみたいだ。
「期待してるわよー」
「まかせてっ!」
「だからよそ見しているとこぼすってば!」
 ふたりの背中に激励を送って、私は、ソファに座る妹たちの隣に腰かけた。
「……そういえば」
 いつも視界の端っこにいる、青い髪と白いコートが見当たらない。私が帰れば一番に出迎えてくるのはいつもなら奴のはずなのに。私の言葉を遮るように、ルカが憮然とした声で、しかしなぜか勝ち誇ったような顔で言う。
「あの青いのは、当分帰ってこないそうですわー」
「へっ? なにそれ。きいてないわよ?」
「なんか、マスターの友達に調声してもらうんだってー」
 しゅっちょーってやつだね、カイト兄オトナだねー、なんて言って、リンはまたテレビに向き直った。……なんだそれ、きいてないぞ。そりゃ、今日は私の方が家を出るのが早かったけれど。
「ご飯できたよー!」
 台所からミクが叫んで、ちょうどよくリンのおなかが鳴った。
 ……とりあえず、腹を満たすことにして、私は、ルカとリンを引き連れてソファを立った。

 ミクとレン(というか、ほとんどレン)が制作したあんかけチャーハンは予想以上の出来だった。もちろんいい意味で。
「あんたにも食べさせてあげたかったわー。ミクがネギ関係以外でまともにモノ作ったの久しぶりだし」
『えーっ、いいなあ。おれのぶんは? 残しといてくれた?』
 食後、弟妹たちがそれぞれテレビを見たり、楽譜を読んだり、マスターに呼ばれたりしているあいだ、私は自分の部屋のベランダに凭れながら、ワンカップ片手に通信を繋いでいた。通信の相手は、いまここにはいないカイトだ。彼は現在、マスターの友人だというプロデューサーのもとにいる。マスターがネット回線を開けっ放しにしているのをいいことに、勝手に通信しているが、きっと許してくれるだろう(というか、気付かない気がする。いま、マスターはリンとレンの調声にかかりきりなはずだから)。
 マスターの友人だという人のところにはMEIKOとKAITOしかいないらしい。その人はうちのマスターと違って作曲はできないといっていたが、調声力はマスターを凌ぐP(プロデューサー)かもしれない、とカイトがいった。なるほど武者修行のようなものなのか。それにしても、当分帰ってこないとかきいてないわよ、と糾弾すると、あれ、いってなかったっけ? と能天気な返事をされた。わかっている、そんなことで幻滅したりはしないわ。こいつはこういう奴。
「そんな、いつ帰ってくるかわかんない奴の分なんてとっとくわけないでしょ」
『ですよねー……あ、でも、お弁当とかにして届けてくれるとか』
「残念でした。余った分はリンとレンが平らげたわよ」
『ちぇー……』
 心底残念そうな声だ。食べざかりだもの、といえば、そうだよねー、と返ってくる。……なんだか所帯じみた会話な気がする。もしここで勝手に回線を開いてこんな風に会話しているのがマスターにばれたら、マスターなら「単身赴任中の夫と電話する妻のようだ」と揶揄するだろう。……別に、私がそう思ったわけじゃなくて、マスターなら、だ。ところで、と回線の向こうから話しかけられる。
『ところでめーちゃん、マスターから新曲もらった?』
「あら、なんで知ってるの」
『こ、こっちのPにきいたんだ』
 あまり、未公開の曲について語ることを好まないマスターだから、こうして(友人とはいえ)他人にまで曲の話をしているということは、よっぽど自信があるか、会心の出来だということに違いない。マスターもよっぽどあの曲を気に入っているらしい。
「そうよ。今日初めて歌ったけれど、すごくたのしかったの。PVはライヴ仕様になるみたい。踊りたいっていったら、踊ることになっちゃったわ」
 私は私で、今日まで決まっていることを一気にまくし立ててしまった。私もあの曲を気に入っているのだ。音源は何度リピートしても飽きることがない。練習はとてもたのしい。こんなにアツくなれるのも、あの曲のおかげだ、とおもう。
『めーちゃん、たのしそう』
「実際とてもたのしいもの」
『ききたいなあ、その歌』
 耳元でささやかれて(通信なのだからインカム越しの耳に直接声が届くのは当たり前だが)、不覚にも心臓が縮んだようにおもった。いつも聞いているいつものカイトの声。なのに、すこしだけ混じったノイズに距離を感じた。
 不意に、ここにカイトはいないのだと実感して、すっと熱が冷めた。手にしたワンカップの中には、不安そうなわたしの顔が映っている。顔を上げたら、目の端に青がちらついた――気がして、周りを見回したが、当然そこに白いコートがはためいていることもなく。
『……めーちゃん?』
「あっ、えっと、ぴ、PV、ちゃんと見せてあげるから、我慢しなさいよね」
 掛けられた声に、無駄に動揺してしまって、言葉が不自然に途切れた。こころなしか顔があつい。なんだ、これは。なんで私、動揺しているのよ。
『うん。たのしみにしてる。じゃあ、がんばって早く帰れるようにするね』
「う、うん……」
 屈託のない声に、またしても顔が赤らむ。カイトと話をするのに、こんなに緊張する理由なんかない。ただ、目の前にカイトがいないだけ、それなのにいつもより声が近くから聞こえる、それだけのことで。それだけのことなのに、こんなにモヤモヤする。モヤモヤする、なんて、漠然とした表現でしか表せない。どこか具合が悪いというわけでもないし、でも万全ともいいがたいこの感じ。エラーとは違うむずむず感。
 それからすこしだけ話をして、適当な頃合いで、明日も早いからじゃあね、と通信を切った。通信を切る直前かすかに、おやすみ、と、きこえた。
 通信を切ってから、モヤモヤとむずむずの正体に心当たりが出てきた。でも――今更、さみしいとかおもうなんて、私らしくないから、きっとこのモヤモヤとむずむずは、それとはなにか別のもの。

 私とマスターの熱意の賜物か、新曲の調声は数日ですみ、いよいよPV撮影の段となった。相変わらずカイトは家に不在だったが、毎日歌とダンスステップの練習をしていると、さみしさはすこしだけ薄れていた。
 PVはライヴ仕様だと前から決まっていたのだが、妹たちもモブで出演(という名のPV見学)するときいたときはさすがに驚いた。おおかたミク辺りがわがままをねじ込んだのだろう。どうせなのでスタジオへは全員で行くことにしたが、やはり、ひとりたりないとすこし違和感があった。おりしもその日の天気は快晴。雲ひとつない青空は、不在の彼の存在を色濃く反映しているようで――いやいや、感傷に浸っていてどうする。
「リン、何やってんだよ置いてくぞー?」
「リボンがうまく直らなくって……レン、直してえ」
「ねえさま、鏡音は初音に任せて、わたくしと先にいきませんことー?」
「もうっ、ルカちゃんはいっつもそうやって、メイコお姉ちゃんを独り占めしようとするー!」
「はいはい騒がない! 騒ぐ子はみんな置いていくわよ!」
 必要以上にはしゃぎぎみの弟妹たちをたしなめながら、スタジオへ向かった。
 余計なことを考えずに、たのしくうたえばいいのだ。それで、あとでPVを見せて、うんと羨ましがらせてやればいい。

「はい、お疲れー! じゃあみなさん、午後の本撮りもよろしくお願いしますねー!」
 撮影スタッフの声で、午前中のリハーサルが終わり、ステージを降りる。リハーサルなのでモブ役の妹たちは出番なし、ということで、スタジオの隅でリハーサルを見学していた。
「お姉ちゃんっ、すっごく! 可愛かった!」「ねえさまっ、とっても! 可愛らしかったですわ!」
「あ、ありがとう、ミク、ルカ……」
 見事なハモリで賞賛された……自分より年下に可愛いと評されるのはどうなのか。そうは思いながらも、自然と口元が緩んだ。複雑ながらも、やはり褒められるのは嬉しい。
「メイコ姉、すごいな。こういう曲も歌えるんだ。エロいのだけじゃなくて」
「やっぱアレだ。メイコ姉の歌ぜんぶ片っぱしからカバーしたくなっちゃうね。ロリっぽくして」
「レン、リン、それぞれ最後の一言が余計」
 たしなめると、二人はよく似たしかめっ面で「だって本当のことだろー」「メイコ姉おカターい」と口々に不満を垂らした。たしかに私は他の面々に比べて、いわゆる「大人向け」の歌を歌うことが多い。けれど、そればっかりじゃないのを知っていてそんなことを言うのはどの口だ、と、レンを責めてやりたい。それに、ロリっぽい声や歌、それにまつわる犯罪臭すら匂わせるような動画が流行しているのを(自分がそのネタに使われているのも)知っていて、敢えてその波に乗ろうというのは、いかんせん教育上よろしくない。その心意気は買うけれど、さすがに保護者としては許せない、と、リンには言っておかなければ。
「うんうん、やっぱうちのめーこさんは何歌わせてもサマになるねえ」
「ま、マスターまで……」
 満足げな顔のマスターに言われると、そうかな? と思ってしまうのがこの人の魔力だとおもう。私たちがスタジオに着いたときには、既に音響整備や撮影準備などをしていたマスターである。本来ならリハーサル中は調整室で音響や照明を監督するはず(実際操作するのはマスターの弟さん)なのだが、通しだけは見たいと駄々をこねて、下に降りてきたらしい。まったく、一緒に動画を制作してくれる人(まあ、マスターの弟さんなのだが)に失礼だとは思わないのだろうか。
「当然だよね、だっておれのめーちゃんなんだから」
「誰があんたの……って、カイト!」
 至極当然という風な顔をして私の背後に立っていたのは、ここ数日私の心にモヤモヤを残して苛んでいた元凶たるカイトその人だった。
「なっ、なんであんたここにいるのよ!」
「え? 調声終わったからだけど……」
「そーいうことじゃなくて……!」
 でも、たしかに「調声が終わったから」以外に、帰ってくるには何の理由もいらないはずだ。訳のわからない問答をしようとしているのは、きっと不意打ちで動揺しているからにちがいない。過度に冷静になろうとする頭に、ひとつの疑問がかすめる。
 私はこいつに何を言わせたいんだろう?
 ……いやいやいや、何って何! 私は何を期待して……期待? それこそ何を、だ。そうよ、冷静になろうとしてもまだ混乱しているのだ。動揺しているだけ、動揺しているだけよ!(大事なことなので2回繰り返した)
「あー、そうそう。PV撮影、カイトを預けてたヤツも手伝ってくれるってんで、ちょうどいいから来てもらったんだ」
「あ……そう、ですか」
 マスター、ナイス助け舟! GJ! と、心の中で大きく叫びながら、私は胸をなでおろした。
 でも、もしマスターが説明を入れなかったら、カイトはどう答えただろう?
 ……何パターンかはすぐに脳裏に浮かび、しかしどれもが恥ずかしい受け答えばかりだったので、一気に顔が熱くなる。ほんとうに、私はカイトに何を言わせるつもりだったのか。
「……めーちゃん? 顔赤いよ? ステージそんなに暑かった?」
「あっ、え、いや! 大丈夫! 大丈夫よ!」
 そうして動揺している私を傍らに、カイトはこうやって目ざとく(しかしあくまで鈍感に)指摘してくるのだから、私はなんとも格好がつかない。ステージの袖からマスターを呼ぶ声がして、マスターはおざなりな返事をしたあと、私たち兄妹に向きあった。
「じゃあ、めーこさんは本番まで楽屋でゆっくりして。その他は出演準備ね。あ、一応言っとくけど、これからステージは演奏スタッフの打ち合わせと最終調整があるから出入り禁止。わかった?」
 言い含めて、マスターは全員をステージから押し出し、鉄扉を閉めた。
 撮影本番まではあと1時間とすこしだ。モブの出演者たちと合流する妹たちと別れて、私とカイトは楽屋前に残された。そういえば、マスターはさっき『その他は出演準備』と言っていたが、カイトはモブ出演しないのだろうか。
「カイトは? 撮影の間どうするの? モブに混ぜてもらうの?」
「んー、それもいいなあと思ったんだけどね、マスターがダメって。めーちゃんの親衛隊で席いっぱいだって」
「じゃあ、撮影中は待機?」
「いや、何もしないで待っているのも暇だし、ステージにお手伝いしに行くよ」
「そう。じゃあ、結局あんたが今日のライヴをちゃんと見るのは後日になりそうね。せっかく来たのに残念でした」
「そうなんだよねー。あーあ、おれもめーちゃんのこと、客席から見たかったなあ」
 数日前から、なんとも他人を羨んでばかりのようなカイトである。でも、きっとカイトはそういう不憫な星の下に生まれてしまったのだろう、と常々思う。ぽん、と肩に手が乗せられ、その手の主を見上げると、にっこりと満面の笑みがあった。
「めーちゃん、おれもがんばるから、めーちゃんもがんばってね」
「うん、ありがとうカイト」
 私にしては素直に口を衝いて出たありがとうだった。ここ数日間カイトが不在だったことで、カイトがいることに、あくまですこしだけだが、喜んでしまう自分が否定できない。きっと、なんだかんだ言っても、カイトが来てくれてうれしいのだ。……別に、いなきゃいなくても大丈夫だけれど、いるならいるで、そこそこ気持ちも違うもの。
「ところでめーちゃん、トイレどこ?」
「……つきあたり右行って奥」
 そっかわかったありがとう、実は我慢してたんだよねー、と、言い終わるが早いか歩き出すが早いか、カイトは長いマフラーとコートを翻して廊下を歩いて行った。……ちょっとしんみりしていたのに、ぶち壊しだわ、あの男。まあ、そこがカイトらしいと言えばカイトらしいのだが。
 私は、自分でもびっくりするくらい満足げなため息をついて、楽屋のなかに入った。

 ステージ暗転のまま、幕が上がる。
「――Come on! Everybody!」
 ライヴがはじまる高揚感。熱を帯びる会場。真っ暗な状態から徐々に明かりが灯り、ステージが全照に切り替わると、既に盛り上がりの波は高く、うかうかしていると飲まれそうなほどだった。インカムマイクが外れないようにたしかめ、足が縺れないように気をつけながら軽やかなステップを踏む。ダンスレッスンで鍛えた足さばきに、観衆は魅了されるはず。
 イルミネーションが目にちかちか刺さる。ライヴを色どるこのイルミネーションは、職人と呼ばれるひとたちが用意してくれたものだ。ライヴPV撮影に協力してくれる親衛隊のみんなといい、私はほんとうに人に恵まれているとおもう。
「――Yeah!」
こういう曲はノリに乗るとほんとうに時間が早く過ぎて行くもので、一番の歌詞を歌いきるころには、会場は熱気が充満していた。
 今日はキィボードも、トランペットも疾走する感じがよく出ている。観客も大いに盛り上がっている。間奏でソロを披露しているパーカッションを横目に、ステップを踏む。サンバホイッスルとコンガの絡み合うソロが終わり、ティンバレスが軽やかな音で激しいソロを魅せる。これが終われば次はサックスのソロだ。景気づけだ、シャウトを入れてやろう。
「――Everybody dance now!」
 そして、私にあたっていたスポットライトが、サックス奏者にあたって――目に入ったのは、金属色に光るサキソフォーンと、青い髪、そして靡く白のコートに、空色のマフラー。そこにいたのは、まさしく、
「カイト……っ!?」
 その短い叫びは、駆け上がるように見事なグリッサンドに掻き消された。願わくは、その声がマイクに拾われていないことだ。
 ――ちょっと、なんで、どうして、カイトがここにいるのよ! しかもなんで演奏しているのよ! それに、いつの間に楽器なんて演奏できるようになったの! 私の頭の中には疑問符ばかりが、パーカッションソロと同じくらいの激しさで飛び交っている。
 私たちもPVや演出なんかで楽器をもつことはあるが、実際にカイトが演奏しているところは、初めて見る。普段は歌を紡ぐ唇が、今はサキソフォーンのマウスピースを咥えている。すこしだけ目を細めて、身体を前傾にしているところを見ると、息継ぎするのがややつらそうだ。しかし、その楽器から放たれる音色は、きらきらと鮮やかな色をしていながら、どこかとろりとなまめかしく耳に響いていく。汗の伝う横顔が、いつもより凛々しく見えた。すこしだけ苦しそうな表情に、色気すら漂っている。再び駆け上がるように音階を登りはじめた音にあわせて、しなやかに身体が反らされていく。最高音が、けたたましく鳴り渡り――私にしかわからないくらい、かすかに口角を上げたカイトと、目が合った。

 その瞬間、体の中に火が灯ったようだった。

 慌てて二番の歌詞を思い出さなければ、と、おもう頭とは裏腹に、この火を絶やすのは勿体ないという想いが強くなる。ライヴの熱に浮かされたのか、それとも、もともとライヴは熱源で、ほんとうの意味で火を点けたのは、彼なのか。
 熱を帯びたからだは、激しい動悸をもって私を突き動かした。体に染みついたダンスが、ともすれば足が縺れそうになるほど激しくなり、歌う声は先ほどよりもよっぽど圧力をもった。視界の端にちらちらと青い影が映るたび、鼓動は大きく狂おしく、頭はカラッポに、テンションはハイになって、トんでしまいそう――ああ、この歌詞は、こういうことだったのね。いま、あらためて理解できたわ。
 歌に想い乗せて――溢れる心、熱く溶けて!
「dancing-night!」

 ステージから退場して、からも、動悸は止まなかった。ほんとうなら楽屋に行って落ち着くところだが、そのまま舞台裏に留まって、機材や楽器を片づけながら退場してくる演奏スタッフたちを待つ。サックス片手に舞台裏に入ってきた件の彼を見て、いてもたってもいられなくなった。にこやかな笑顔を振りまいてスタッフに挨拶し、私を見つけると満面の笑みで、めーちゃんおつかれー、と声をかけながら近寄ってきた。ああ、やっぱりアレ、夢じゃなかったのね。
 ていうか!
 がっ、と、その彼のアイデンティティともいえる青いマフラーを握りしめ、思わず叫んでいた。
「なんであんたがいたのよ――!」
「おっ、怒んないでめーちゃん! マフラー引っ張んないでちょっとっ……!」
「なんで? なんでいるのよ!」
「だから、めーちゃ……揺らさないで、くるしっ……!」
「めーこさんめーこさん、死ぬ、かいとくんが死ぬ」
 はいはいやめてやめてー、と、マスターのぬるい静止が入った。
「マスター、どーいうことですか!」
「どうだったあ?」
「どうって、そりゃ歌詞忘れそうになるくらいびっくりしましたよ! なんでカイトが!」
「だから、かいとくんにこれをやってほしくて、友達んとこに預けたんだってば」
「はあ!?」
 思わずケンカ腰の口調で返してしまったが、どうやらこういうことらしい。
 マスターがこの曲のオケを作っている時、件の友人が「全部KAITO」というタグのついた動画を見せてくれたらしい。マスターの友人はたしかにオリジナル作品の作曲はできない。が、有名な曲のオケの一部をボーカロイドソフトで作っており(いわゆるカバーというやつだ)、近々アカペラ演奏動画も作る予定だという。そこで、マスターも自分の曲でカイトを「楽器」として使ってみたいとおもったそうだ。しかし、ウチのマスターは「歌唱」用の調声はできても、「楽器」としての調声は難しかった。そこで、カイトが単身修行に出された、というわけである。
「めーこさんも喜ぶかとおもったのに」
「そういうことは事前に言って下さい!」
「え、かいとくんから聞いていないのかい? 私がネット繋ぐごとに通信していたくせに?」
 ばれている。
 内容まではきかれていない(はずだ、たぶん)とはいえ、思わず赤面してしまった。きょとんとした顔でさらっと爆弾を投下するのがウチのマスターだ。赤面したままの私が二の句を継げないでいると、マスターはカイトに向き直った。
「かいとくん、めーこさんに言っていなかったの?」
「マスターが言ってなかったみたいだったので、てっきりサプライズのつもりなのかとおもって……はっきりは言いませんでしたけど」
 そんなつもりはなかったのだけれどなあ、と、マスターは首をひねった。かいとくんがぶっつけ本番だったから、演奏スタッフだけで調整したのだけど、めーこさんも混ぜた方がよかった? でもめーこさん本番前は休まないと声上擦るから……と、ぶつぶつ独り言モードに入ったマスターの声を上の空でききながら、私はカイトに噛みついた。
「はっきりは言ってない、って、あんたねえ、一言もきいてないわよ!」
「おれは言ったよ?」
「き、い、て、な、い!」
「ちゃんと言ったよ! 『おれもがんばるから、めーちゃんもがんばって』って!」
 そういえば、本番前にそんなことを言われた気もする。でもそれは、「おれも(お手伝いを)がんばるから、めーちゃんも(ステージを)がんばって」という意味ではなかったのか――いや、違う。
 おれも演奏をがんばるから、めーちゃんも歌うのをがんばって、だったのだ。
「でっ、でも、ライヴはちゃんと見られないって……!」
「だって、ステージで演奏していたら、そんなに頻繁にめーちゃんのこと見ていられないじゃない。見えたって、いいとこ後ろ姿くらいでしょ」
 そりゃそうだ。たしかに、演奏しながらでは、ライヴを「ちゃんと」は見られない。
「ま、おれは前に出たから顔までばっちり見れたわけだけど。めーちゃん、おれが吹いてるとき、ずっと見つめててくれたの、嬉しかったなあ」
「ばっ……! べ、別に、あんたがあんなに楽器吹けるなんて知らなかったから、っ!」
「上手だったでしょ? 格好良かった?」
 格好良かった、と、おもってしまった。
 ――なんて、こんなへにゃへにゃした笑顔の奴には言ってやらないんだから! でも、これだけは認めてやらねばなるまい。
「……すごく、良い音だったわ。私まで熱くなった。すごくドキドキしたわ」
「ありがと……め」
「おねーちゃああああん!」「ねえさまあああああああ!」
 カイトが何か言いかけたところで、ミクとルカが舞台裏に駆けてきた。
「すっごく! よかったよお!」「とっても! 興奮しましたわ!」
「あ、ありがとう、ミク、ルカ……」
「やー、すごかったよメイコ姉! こりゃ、ロリ声じゃあカバーできないね! 本気でカバーしたくなったよ!」
「しかし、メイコ姉の親衛隊ってすごいな……もうメイコ姉の声よりコールで耳が痛かったぜ……」
 今だ熱気冷めやらぬといった表情の弟妹たちは、口々に感想を述べている。若干蚊帳の外になったカイトが、
「ね、ねえねえ、お兄ちゃんは、どうだった?」
「あら、青いの。いつからそこにいたのです?」
「ずっといたよ! おれ、ステージで演奏してたでしょ!」
「演奏? カイト兄が? してたっけ?」
「してたよ! 間奏でソロまで吹いたのに! リンちゃんひどい!」
「え~、ミクも全然気付かなかったあ。ミク、お姉ちゃんばっかり見てたからね!」
「うっ……ミクまで……! れ、レンくんは」
「ゴメン、 オレ間奏中は親衛隊に踏まれかけてて、それどころじゃなかったや」
「そんなあ……!」
 ……若干どころではなく、蚊帳の外になってしまった。そんなカイトを、マスターが同情と憐みの目で見ている。マスター、せめて慰めてあげてください。そんな風に舞台裏の隅にわらわらと群れる弟妹たちを、スタッフが邪魔そうな目で見ている。ステージ撤去がはじまったのだ。あまり大勢でたむろしていると迷惑になってしまう。
「ほら、そろそろ出ないと。私は打ち上げがあるから、今日はみんなで仲良くご飯食べるのよ」
「わかっていますわ」「はーい」「じゃあ、帰りにみかん買っていこう!」「あっ、リンばっかりずりいぞ!」
「あ、おれも打ち上げ出るから遅く……って、ちょっとみんな! きいてえええぇぇ!」
 カイトの叫びを背に、弟妹たちはさっさと舞台を後にした。え――、とロングトーンしたままのカイトの肩に手を置くと、カイトはあからさまに項垂れた。
「そ、そんなに目立たなかったかなあ、おれ……」
「そんなことはないとおもうけれど……」
 でも、さすがにこうも一様に(本気かネタかわからないが)注目されないというのも、いささか不憫になる。
「大丈夫よ、カイトはちゃんと格好良かったわ。見惚れちゃうくらい」
 いつもより若干低い位置にある(しかし、それでも手を伸ばさないと届かない位置にある)頭を撫でてやると、途端に顔が上がった。目がまん丸で、顔は赤くて、驚きと喜びの混じったような顔で、カイトはじっと見つめてきた。
「な、なによ」
「ほん、と、に?」
「なにが?」
「ほ、んとに、アレ……あの、本番中、見惚れてた、の?」
 頬に熱が集まる。先ほど自分の言ったことを反芻して、穴にでも埋まりたい気持ちになる。ポロッと出たにしては、恥ずかしすぎる本音ではないか。
「あのっ、」
「嬉しい」
 否定しようとした言葉を遮って、がばりと抱きついてくる。こんなところで抱きつくな、と言えば、だって嬉しいんだもん、と返ってくる。ああ、きっと今コイツは、喜色満面というか、情けないほどだらしない笑顔なのだろうな。そして、私はと言えば、きっと顔じゅう真っ赤で、もしかして耳まで赤くなっているかもしれない。
「ね、も一回言って」
「は? 何を――」
「かっこよかった、って、言って?」
「何、調子乗って……!」
「おねがい」
 ぎゅうと抱きしめる力が強くなる。これ以上ここでこの態勢でいるのはさすがに恥ずかしいし(だって、さっきからなんだかスタッフたちの視線が気になる!)、どうせ一度言ってしまった言葉だ。私は、意を決して、それでも恥ずかしさが先行しているのでカイトにだけ聞こえるくらいの音量の声を出す。
「……格好良かった、よ」
「えへへ、ありがと」
「も、もういいでしょ!」
「うん。あ、おれも言わせて? ――メイコは、すごく可愛かったよ」
 そう言い残すとカイトは、私をぱっと解放し、るんるんといつもより軽い足取りで、舞台撤去の手伝いをはじめた。私はと言えば、スタッフの冷やかすような目線に耐えながら、硬直していた。
「……バカイト」
 精一杯の悪態も、これが限界。
 ――あんたのせいで、ライヴ中の「あの」熱が、戻ってきちゃったじゃない……!
 そんな風に責任転嫁しなければ、熱に浮かされたまま溶けてしまいそうな気がしたのだ。

Fin. (C)KERO Hasunoha
******

まだなにかあるようだ!

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[ 2009/06/13 02:33 ] 小説系 | TB(0) | CM(0)

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