スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
[ --/--/-- --:-- ] スポンサー広告 | トラックバック(-) | コメント(-)

恋するアプリそのろく! 

******
恋するアプリ――From a music, "Application software in Love" by halP
******

6.浮き沈み重ねるLife

「――なんだ、ハルカさんって他人も他人じゃないですか」
「……アキラ、東雲家のカイトもなかなかいってくれるじゃねーか。しかもこいつも名前呼び……」
「ウチのかいとくんの認識はなにも間違っていませんよ? それに、ハルカって名前のひとをハルカって呼んで何か不都合がありますか?」
「……」
 おれの日常に、いきなり土足で踏み込んできたこの男は、名前を「白瀬悠」といった。どうやら、マスターがバンドの演奏活動を通じて知り合った「美憂先輩」というボーカロイドマスターの従兄弟らしい。何でそんな他人も他人みたいなやつがここに来るんだ、という風なことを、できるだけ遠まわしに婉曲に棘のないようにマスターに向かって訊くと、マスターは懇切丁寧に教えてくれた。

 そもそも、マスターはアマチュア楽団のプレイヤーである。音楽を始めたのはずいぶん前だが、DTMをはじめたのは、大学に入って一人暮らしをしてからだという。それまでは、インストゥルメンタルの畑で作品をつくっていた(ちなみにボーカロイドを購入すると決めたのは、バンド活動で「美憂先輩」という女性のボカロマスターに出会って、意気投合したかららしい)。
 その音楽経験からか、マスターのつくる曲の作風は、クラシカルやロックに偏っていた(じっさい、姉さんのうたった曲の半分以上はロックである)。そこで、おれのソロ曲をつくるにあたり、マスターは(何をおもったか)一念発起してポップ系にしようと決意したそうだ。いわく、「かいとくんメイン初挑戦だし、新しいことやるなら今かなっておもって」「まあ、これでコケてもまたいつもの路線に戻せばいいだけだし」……とのことだった。
 苦戦しながら、なんとか音源はできたはいいものの、こんどは調声がうまくいかない。その原因は多分におれにあるとおもうのだが、そんなことに全く気付かないマスターである。もともとロックのバックコーラスとして調声していたおれの声が、ポップ調にあわないからうまくいかないのではないか、と考えて、マスターは「美憂先輩」を頼ったのだという。ところが、「美憂先輩」とやらは仕事の都合などもろもろがあり、マスターの家に来られないという。おれがパソコン内のアプリケーションソフトである以上、必然的におれのいるパソコンがその場になかったらいけないわけだが、しかし、残念ながらおれたちのインストールされているパソコンはデスクトップ型で持ち運び不可。おれたちがヒューマノイド型なら――いまやボーカロイド用の筐体というのも売られていて、そこにボーカロイドのデータをインストールし、自由に連れて歩けるようになっているのだ。うちのマスターのように、筐体を買わずに完全にアプリケーションとしてボーカロイドを使用するマスターは、いまどき珍しいらしい――そんな不都合もなかったのだが。
 そこで、「美憂先輩」が彼女の代わりとして従兄弟の白瀬悠を紹介してきたのだという。

「ほんとは美憂先輩の方が調声うまいんだけどね。それでもポップ系は私よりハルちゃん先輩に一日の長があるから、不本意ながらきてもらったというわけだ」
「アキラ、俺帰っていいか?」
「いいですけど、楽曲提供の件はなかったことに……」
「……わかった、冗談だ、すまん。たのむからうちのめーちゃんのためにロック曲を書いて下さい」
 ハルカさんは、曲についてアドバイスしたりおれの調声をみたりするかわりに、マスターからの楽曲をもらうという条件で、今回の訪問を引き受けてくれたそうだ(それにしては、マスターの損する分が多いのではないだろうか、なんておもってしまうおれもおれだ)。ひととおり自己紹介が終わると、ふたりは、曲の調整を先にするといって、おれを起動したまま重ねて音楽ファイルをひらいた。
 そのファイルの裏で、おれは、深く深くため息をついた。正直、ハルカさんに対して、なんだただの他人か焦って損した、とおもうと同時に、なんだこいつマスターになれなれしくしやがって、ともおもうきもちが入り混じっている。もちろん、ハルカさんは外見もそこそこ格好よく、先ほどの短いやりとりからでもざっくばらんで面白い人柄が見えてきて、性格的にもそれほど悪くないひとだということはわかった。けれども、(「美憂先輩」を通じて、以前から一緒に酒をのむほどの仲だったというが)マスターへの態度は馴れ馴れしい以外の何物でもなく感じられるし、(パソコンのディスプレイをふたりで覗いているせいだけれど)ふたりの顔の距離が妙に近いのが気に食わないし、なにより、
「――で、ここにこういうエフェクトをいれると――」
「あ、すごい……全然違ってきこえます――」
「ちなみに、ここをこうすると――」
「――その発想はなかったですね……」
 おれの見たことがないマスターの表情を引き出しているのが、とても憎たらしい、と、おもう――くやしい、と、おもった。
 マスターは、音楽に対しては基本的に真摯でまじめだ。ちょっとおカタすぎるという評価すらある。適度な遊び心を心得ていても、じょうずに表現できないのが、マスターの弱点であり悩みでもあった。だからこそポップな曲調が苦手で、不安があって、こうして他人に曲をみてもらっているのだ。
 改めて思い知らされる、人間とソフトの違い。アプリケーションソフトウェアの特性上、おれはマスターに逆らえないし、逆らえないどころかマスターの能力以上のことはできない。マスターの能力を引き出したり、マスターの弱点を補う技術を教えたり、マスターにとってプラスになるようなことを、なにひとつしてあげられないのだ。
 それなのに、好きとか恋とか――嫉妬とか。使用者に対して、人間に対して、余計な感情ばかり抱くおれは、はたして欠陥品なのではないだろうか。
 ぎちりと唇をかみしめた。血の味なんてしないはずなのに、口の中には苦々しさばかりが広がっていく。ふつふつと沸き上がる、こらえきれない「なにか」に耐えきれずに、ぎゅっと拳をにぎりしめ、まぶたをきつく閉じて、駆けだした方向はディスプレイの方向だった。なぜそんなことをしたのか、なぜ自分が走っているのか、わからなかった。ただ、久しぶりの全力疾走の果てに――おれは、ディスプレイの画面に顔面を強打した。
「っ……!」
 あまりの痛みに声さえ出ない。予定調和といえばその通りの結果だった。痛みにこらえ、顔を覆ったまま、しばらく寝そべっていた。痛みが引いて、視線を少し上げると、なんにも気付いていないマスターの顔が近くに見えた。真剣な、それでいて、わくわくするきもちを抑えられないような、そんな顔。……おれには、見せてくれなかったその表情。
 ――ああ、ちくしょう。いまは、打った顔より心が痛い。
「――かいとくん? かいとくーん?」
 マスターの声に、はっとした。あわてて起き上がってマスターを見る。
「はいっ! はい、マスター!」
「ああ、起きてた。よかった。またフリーズしたかとおもってヒヤヒヤしたよ」
「すみません……」
「しかし、いちいち動作が重いなあ。このパソコン、ウイルスとかバグ持ってんじゃないか?」
 ハルカさんの発言に、おれはぎくりと身をすくませたが、二人ともそれには気付かなかったようだ。
「たぶん大丈夫だとおもいますけど。それよりかいとくん、早速だけどうたってみようか。ハルちゃん先輩にきいてもらおう」
「あ、はい!」

 促されるままうたったが、内心複雑だった。おれはうまくうたえているだろうか。
 マスターの望むようにうたうために、「恋心」を知ろうとした。恋がなんなのかを知ったあとは、とても嬉しくて、たのしくて、苦しくて、切なくて、エラーが出るほどきもちが溢れて止まらなかった。それでもうたおうとすれば、エラーが邪魔してうたえずに、マスターを困らせてしまった。おれがマスターの望むとおりにうたえないことで、ハルカさんにも来てもらっているのに、勝手に嫉妬して、勝手に怒って。
 ああ――おれはこんなきもちで、このうたをうたって、うまくうたえているのだろうか。

「……俺、こいつのどこを直せばいいんだ?」
 うたいおわったおれに、最初にかけられた言葉はハルカさんのものだった。そうか、おれのうたは、赤の他人が聴いてすら、そんなに直しようもなくひどいのか。重症じゃないか。顔から色を失くした風のマスターが、呆然としながらも、その言葉に応えた。
「……そうですね。直すところ、ないですね」
 ですよねー……って、え? いま、マスター、なんて?
「調教がうまくいかない、って、いってたんじゃなかったのか」
「その……はずですけど……」
「じゅうぶんじゃないか。コイツのどこが不満なんだ」
「……昨日までは、いろいろおかしかったんですけど……ていうか、今のがいちばんよかったかも……」
「悪いが、俺はこいつにこれ以上に上手い調教はできんぞ?」
「それは知ってます」
「そこだけ即答すんな!」
 え、え? どういうこと? どういうことですか、マスター?
 呆然と立ち尽くすおれに、ちょっと困った笑顔のマスターが首をかしげた。
「――かいとくん、いったいぜんたい、どうしちゃったんだい?」
 マスター、おれにもわかりません。

05<< To Be Continued... >>07
TEXT RIGHTS:KERO Hasunoha, AND, CHARACTER RIGHTS:KOHARU Ohmiya
******

ブログランキング参加中。
ブログランキングバナー
[ 2009/07/15 01:27 ] 小説系 | TB(0) | CM(0)

コメントの投稿














管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

この記事のトラックバックURL
http://phantomlake.blog58.fc2.com/tb.php/1291-efb0ae52


上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。