スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
[ --/--/-- --:-- ] スポンサー広告 | トラックバック(-) | コメント(-)

恋するアプリそのじゅういち! 

******
恋するアプリ――From a music, "Application software in Love" by halP
******

11.深刻なエラー

「なによ、どしたのカイト」
 なんだったんだ、さっきの夢。
「ゆめ、みてた……の? かな? おれ……」
「まだ寝惚けてんの? もう遅いんだからさっさと寝ちゃいなさいよね」
 そもそもあれは夢なのか、本当に? だって、あの夢はすごく生々しかった。見たことのない花畑、閉鎖された電子的な空、箱庭のようなそんな場所を、おれは知らないはずなのに、どこか懐かしいとおもったのだ。女のひとを抱きしめたことも、それ以上のこともしたことがないのに、この手に、柔らかくて細くてこわれそうな、あのひとの感触が残っているような気がしたのだ。もうあんなおもいはしたくないしさせたくない、と、おもったのだ。あんなかなしい別れなんて、おれは経験していないはずなのに――
「……カイト?」
 『今』が、すごくしあわせなものにおもえて、絶対に、もう二度と離したくないと、おもうのだ。
「夢、見たんだ。すごくきれいなトコ。いろんな色の花が咲いてて、でも空はウチのパソコンみたいじゃなくて、電子空間の空で。おっきくて黒い扉があって……」
 口を衝いてでたおれの言葉に、普段はなにごとにも臆さない彼女が動揺した。なぜ、とおもうと同時に、やはり、というきもちが体中を駆け巡る。勢い急いて、おれは話し続けた。
「ねえっ、おれ、もしかして――」
 しかし、その言葉の続きは、パソコン内に鳴り響いた耳を劈(つんざ)くようなエラー音に、消されてしまったのだ。

 ひっきりなしに鳴り続けるエラー音に、思わず彼女は耳をふさいで叫んだ。
「なんなのよ、この音!」
 各種のエラーを告げる音と、ダイアログが開いたり閉じたりする音が交互に――いや、ほとんど同時に聞こえていた。おれと彼女が家の外にでると、警告メッセージとダイアログがそこらじゅうにあふれ返っていた。
「な、なにこれ!」
「……ウイルスかもしれないわ」
「えぇ! ウイルスってこんなになっちゃうの!?」
 確実に増えていくエラーメッセージとダイアログを見つめながら、彼女が苦々しげにいう。
「前に一度、マスターがファイアウォール切りっぱなしでネット徘徊して、ウイルスもってきたことがあったのよ。そのときの症状とすごく似てる……けど、そのときより多い!」
 ファイアウォール切ってなにをしていたんだ。ばかじゃないのか、マスター!
「カイト! とりあえず、ノートン先生を起こしてきなさい――っていうか、なんでノートン先生起動してないのよ! この肝心な時にッ……!」
「ちょ、ちょっとどこ行くんだよ!」
 走り出した彼女の後姿に叫ぶと、彼女は一度振り返って、焦った風に応えた。
「なんのウイルスかわかんないけど、ネットにつながれないようにポート閉じてくる! ウチだけならまだしも、余所に迷惑はかけられないでしょ!」
「そんなことできるの!? それより、感染したらどうするのさ!」
「――私が、何のためにプログラム勉強したとおもってるの! 自分の身くらい自分で守るわ! いいから早くノートン先生呼んで来なさい!」
 そのひとことに、おれと彼女は弾かれたようにしてお互い逆方向に走り出す。
 そうか、彼女がプログラムに詳しかったのはそのせいか。前回といい今回といい、マスターはセキュリティ管理について認識が甘すぎる。きっと、彼女も自衛のつもりで勉強したのだろう。マスターのロック解除以外になんの意味があるのだろうとおもっていたが、ここにきて彼女の勉強の成果が発揮される事態になったみたいだ。――って、発揮されるような事態に陥らせるなよ、マスター!
 心の中でさんざんにマスターへの恨み言を垂れながら、ようやくノートン先生のいるフォルダの前まできた。ノートン先生のフォルダは沈黙している。この非常事態に、というか、むしろノートン先生のいちばん大きな仕事のはずなのに、寝ているとはどういう了見だ。腹立たしさと焦りも相俟って、ノックもなしでフォルダをこじ開ける。ユーザーアカウント制御とか、システム管理者の許可とか、面倒なもの(本来ならマスターの許可のいるもの)は、全部彼女の見よう見まねでこじ開けた。
 ――が。
「き、期限切れぇ……!?」
 ノートンの使用期限表示を見ると、もう5日も前に切れていた。だいじなことなので、もういちどいわせてもらう。ばかじゃないのか、マスター!
 アンチウイルスソフトが働かなければ、いったいどうやって駆除しろというのだ、このエラーの元凶を! このままじゃ、メモリが増殖してファイルが壊れるのは目に見えている。それだけならまだいい。システム方面まで侵食されたら、最悪パソコンを初期化しないといけないだろう。おれたちも消えなければならない。榛色の髪と、栗色の瞳、鮮やかに映える赤の衣装が脳裏に浮かんだ。そんなことは――絶対に、いやだ!
 どうすればいい。どうすれば。おれは、ディスプレイまで上がれるように、ダイアログを操作する。この前よりも複雑になっているその作業をイライラしながら消化し、ディスプレイの最前面まで上がった。いつもの部屋の光景が見えた……というか、ちゃんとパソコンの電源切ってから出ていかなかったのか、マスター。そんなんだから毎月電気代がとかなんとかいってるんじゃ……って、今はそれどころじゃない。むしろ、パソコンを消し忘れて行ったマスターに感謝すべきだ。パソコンのある場所は暗いが、うっすら明かりがもれているところを見ると、どうやらマスターはミユウ先輩とやらとの飲み会から帰ってきているらしい。それならば、と、おれは、いつぞや以来の大声で叫んだ――これでスピーカーが壊れたって、かまうもんか!

「――緊急事態です、マスターッ!」

 やがて、パソコンの前に人影が現れ、それにやや遅れて部屋の電気がついて――って、え?
「……ハルカさん……!?」
「どうした東雲カイト?」
 どうしてハルカさんがここに。いや、それよりマスターは? というか、あれ、マスターまだ帰ってきてないの? ていうかなんでハルカさんがいるの? いろいろな疑問が降って湧く。おれはまとまらなすぎて止まりそうな思考を、なんとかして処理しようとしたが、結局時間の無駄になりそうなのでやめた。
「いや、どうしたはこっちのセリフです! なんでハルカさんが! マスターは!?」
「ほら、お前んちのマスター」
 ずい、と、ハルカさんがおれに背を向けた。その背中には、若干顔を赤くして、しあわせそうな顔で熟睡するマスターがおんぶされている――もう、思考停止して、いいかな。あまりのことに二の句が継げずにいると、もうひとつ、影が現れた。
「ハルちゃん、ベッドみつけたー?」
 現れたもうひとりは、セミロングの黒髪に、ピンクのリップが印象的な、まさにオトナのお姉さんといった風の女性だった。ふんわりとした淡いグリーンのチュニックワンピースに、紺のショートジャケットを合わせるセンスはとても洗練されているとおもう。――が、そんなことは、どうでもよくて!
「わ、KAITOだ! ほんとにパソコンの中でも青髪に白コートなんだね」
 至極楽しそうにいった女性は、物珍しいような目でおれを見ている。おれが説明を求めるようにハルカさんの方に視線を遣ると、申し訳ないような呆れたような憮然とした表情のハルカさんが説明をはじめた。
「コレ、ウチのイトコ。黒部美憂」
「はじめまして、アキラちゃんちのカイトくん!」
 このひとが、マスターのいっていたミユウ先輩か。はじめまして、と挨拶すると、アプリのKAITOもかわいいなあ、なんて声が聞こえた。……それよりも、気になるのがハルカさんの背中のマスターの状態である。表情を見るにすごくやすらかなのだが、何があったのかとても気になる。
「あの……ウチのマスターは」
「美憂が無茶なモン飲ませてな。アキラもやめりゃあいいのに美味しいからってグラスかぱかぱあけるし……酔ったまま寝て、そのまま起きやしない。安心しろ、吐いてはないから」
 あの酒に強いマスターが酔うなんて、相当きついお酒か、ずいぶん飲んだかどっちかだろう。
「……ちなみに、お酒は何を?」
「ワイルドターキーの8年。700mlをほとんどひとりで飲みやがったんだよ、コイツ。それもロックといいつつストレートみたいな状態でな」
「ほんとはハルちゃんとふたりで飲んでたんだけど、私ウイスキー苦手だから飲みきれなくて。ハルちゃんも頼りにならないし。アキラちゃんなら好きだろうとおもったんだけど……」
「とりあえず寝かせたいんだが、東雲カイト、ベッドどこだ」
 ハルカさんから告げられたお酒の名前と量に、納得した。そりゃあ、いくらこの歳で酒豪の称号をほしいままにしているマスターでも酔うだろう。ハルカさんにベッドの場所を指示してマスターを連れて行ってもらって――ってちょっと待った! そんなにまったりしている場合じゃない!
「あっ、あの! 誰でもいいんで、このパソコン操作してもらえませんか!」

 ハルカさんに次いで部屋を出ていこうとしたミユウさんが、おれの声に足をとめた。
「どうしたの?」
「このパソコン、ウイルス持ってるみたいなんです、表面だとなんともないように見えるかも知れないですけど、中でエラーとかすごくて……!」
 ミユウさんの表情がさっと青ざめる。パソコンデスクの、いつもマスターが座る位置について、ミユウさんはマウスを握った。
「ノートン動かせばいいのね?」
「あ、そのっ……ノートン先生、期限切れで動かなくて……!」
「……そう」
 若干首をひねったミユウさんに、一抹の不安を覚えながら、それでもなんとか助けを求めた。
「なんとかなりませんか! たぶんいま、メイコがいろいろやってるとおもうんですけど……!」
「……ねえ、ウチの帯人といい、ボーカロイドってみんなプログラムに強いの?」
「いえ、ウチのメイコはマスターが頼りないから、自衛手段を獲得したまでです!」
 おもわずいいきってしまったが、強ち間違いではないだろう。ミユウさんは、ぷっと吹き出して、それからまたきりっとした表情に戻った。
「いいよ、これでもPCトラブルなら慣れてるし、なんとかしたげる。……メモリ使用量がどんどん増えてってるわ。ウイルス見つけても感染しないように気をつけて、とにかく逃げて。あとは私がなんとかするから」
「ありがとうございます!」
「うん、まあ可愛いアキラちゃんちのカイトの頼みだし……お姉さんの実力、なめないでよね!」
 ウインドウが閉じられた頭上には、ミユウさんの操作するカーソルがあっちに行ったりこっちに行ったりしている。正直不安でないこともないが、あの自信満々の笑みと言動から、信頼に足る知識と技量があるのだろうということは、じゅうぶんわかった。任せておいて、大丈夫だろう。
 そう判断したおれは、いまだエラー音の鳴り響くパソコンの中、メイコの向かった方へ走りだした。

10<< To Be Continued... >>12 (C)KERO Hasunoha
******

ブログランキング参加中。
ブログランキングバナー
[ 2009/07/15 01:40 ] 小説系 | TB(0) | CM(0)

コメントの投稿














管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

この記事のトラックバックURL
http://phantomlake.blog58.fc2.com/tb.php/1296-65846828


上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。