スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
[ --/--/-- --:-- ] スポンサー広告 | トラックバック(-) | コメント(-)

迷える羊と羊飼いそのに! 

******
迷える羊と羊飼い――Lost sheep and Lost shepherd.
******

2.迷える羊

 あたしは取り残されて、しばらく動けなかった。頭の中には、アルミ缶を叩いて割って潰すような音が鳴り響いている。
「……カイコ?」
 いつもの優しい兄さまの声に、我に返ると、やっぱりそこに彼はいなくて、
「めいわく、だったんですね……」
 ぽつりと呟くと、ぽろぽろと涙があふれてきた。

 涙と洟を拭って丸まったティッシュが山になるころ、やっとあたしは落ち着いて話ができるようになった。
 ぶつけられためーくんの言葉は衝撃的だった。「迷惑」「疲れる」――邪魔だのうざいだの変態だのなんだのと言われたことはあったけれど、その言葉だけは今まで決して出てこなかったのだ。めーくんは直情的な言葉を吐いているように見えて、実はとても繊細な言葉選びをしていることを知っている。だからこそ、余計にその言葉が刺さった。
「……めーくんにそこまで嫌われていると思いませんでした」
「うん、お兄ちゃんもそう思う……」
 同情を通り越して、自分のことのように意気消沈してしまった兄さまが同意の言葉を述べた。あたしと兄さまのため息は絶妙なタイミングでシンクロし、それもまた暗いきもちに拍車をかけた。
「……でも、そうねえ……カイコも悪かったんじゃないかしら……」
 めー姉さまは、なにかを考えるそぶりをしながらあたしを見る。おさまったと思った涙が、また顔をのぞかせる気配がする。
「や、やっぱりあたし」
「あーあー、カイコ、違うの、ちゃんと話ききなさい!」
 泣きそうになったあたしを見て、めー姉さまが慌てて付け足した。あたしは、くっと堪えてめー姉さまの言葉を待つ。
「カイコ、メイトは譜読み中だったのよね?」
「はい、マスターから新譜を貰って、とっても嬉しそうで……」
「それじゃあメイトが怒るのも無理ないわ。ねえカイコ、カイコの譜読み中に、メイトがちょっかい出してきたことあった?」
 めーくんがあたしに何かしてくること自体が少ない。いや、あたしがめーくんに構いすぎなのかもしれないけど……。でも、よく考えたら、後ろからマフラーの裾を引っ張られたり、勝手にアイスを食べられたり、そういうこまごました嫌がらせはされた覚えがある。ソファでうたたねしている間に、リボン結びしていたマフラーを固結びにされた時なんかは、ほんとうに腹が立ったものだ。
 でも、お仕事中とか、楽譜を近くに置いている時に、あたしが彼になにかされたことはない。
「……ない、です」
「メイトは仕事にかんしてはすごくストイックだから、仕事関係のこと考えてる最中にべたべたされるのは嫌いなのかもね」
 そういえば、たまにスタジオで会った時などは、いつものめーくんに輪をかけてクールなめーくんである。それもまた格好いいんだけど……じゃなくて。
 あたしたちに回ってくる仕事は、すごく少ない。ビジュアル的なお仕事はいくつかあっても、うたをうたう仕事は、それもネタ歌じゃない仕事なんてすごく少ない。……久しぶりの新譜だと言っていためーくんはとても楽しそうで、いつになく真剣な目で楽譜を追っていた。
 そうかも、と一言肯定すると、めー姉さまはふんわり笑って、そういうことよ、と言った。
「なにも心底カイコが嫌いなんじゃないと思うわ」
「そうでしょうか……」
 それでも、めーくんの迷惑になっていたのが確定的になっただけに思えて、あたしのきもちはまた沈んだ。そんなあたしを見てなにか思ったのか、兄さまも口を添えた。
「カイコ、おれ、めーくんはカイコのこと気遣ってくれたんじゃないかと思うよ」
「気遣う……?」
「だって、おれが譜読み中のめーちゃんに抱きついたりお腹触ったりあんなことやそんなことしたらどうなると思う?」
 間違いなくめー姉さまの鉄拳が兄さまの意識を天の彼方に追いやるだろう。
「めーくんはカイコに乱暴なことしたくなかったんじゃないかな、めーくん優しいから」
「……『めーちゃんは乱暴者だ』って聞こえるんだけど……?」
「そんなことないよ! 確かにめーちゃんは女の子にしてはちょっと乱暴かもしれないけど、愛なら仕方な……いたっ!」
 ぽかん、と、めー姉さまが丸めた台本で兄さまの頭を叩いた。でも、その顔に「あ、またやっちゃった」というのが書いてあったので、兄さまは愛されてるなあとすこしうらやましくなってしまった。……うん、愛なら仕方ない。
「……とにかく、めーくんはカイコのこと、憎からず思ってると思うよ、おれは」
 兄としては誠に遺憾ながら、という兄さまの心の声が聞こえてきそうだったので、そこには耳を塞いだ。兄さまはとても面倒見がいいひとなのだけれど、ちょっぴり過保護よね、とは、言わずにおく(同義語はシスコン、だ。これを言われると兄さまは非常に弱い。本当のことなので返す言葉がなくなってしまうのだ)。
「ところで、なんでそんなにメイトとのデュエットにこだわるの?」
 めー姉さまが不思議そうにあたしを見た。……すきなひとと一緒にうたいたい、と思う気持ちは、きっとめー姉さまも知っているはずだから、きっとこの話をしても笑わないよね。
 あたしは、めーくんが楽譜を貰った日のことを回想する。

 めーくんが貰ってきた楽譜は、あたしもうたったことのある曲だった――というか、本当は兄さま用に作られた曲だったので、正確にはあたしはカバーということになるんだろうけど。とにかく、そのタイトルを見て、あたしは嬉しくなってしまったのだ。
 めーくんよかったね、というと、めーくんは、珍しく上機嫌に、おう、と答えたのだ。
 機嫌がいい時のめーくんは本当に珍しい。だから、思い切って訊いてみたのだ。
「ねえねえ、めーくん」
「なんだよカイコ」
「あたしがめーくんのために、恋のうたをうたったら、めーくんは嬉しい?」
「……突然何の話だよ?」
 めーくんは苦笑しながら、あたしを見た。
「あのね、マスターが作るうたって、恋のうたが多いでしょ?」
「あぁ、そうだな。今回の曲は違うみたいだけど……」
「うん、でもね、それってマスターのためにうたってるのよね」
「そりゃそうだ。俺らだって曲がりなりにもボーカロイドだからな」
 そう、曲がりなりにも、という形容がついてしまうことが悲しいが、あたしは兄さまから、めーくんはめー姉さまから派生したボーカロイドなのだ。だから、マスターのためにうたうのは、あたりまえだし仕方ないことだ。でも、あたしはめーくんが大好きだから、
「一度めーくんのためだけにうた、うたってみたいなあ、って思って。めーくんはそういうの、嫌?」
 勢いこんでそこまで言うと、めーくんはほっぺを赤くしていたので、もしかして怒らせてしまったかと思った。どうしよう、またばかとか言われるのかな、と、身構えたが、めーくんはふいっと顔をそむけて、よくもまあ恥ずかしげもなくそんなこと言えるよな、と呟いた。
 怒られると思ったけど、もしかしてめーくん照れてる? ちょっと可愛いかも。そう思ったら、ほとんど無意識にめーくんの腕に自分の腕をからませていた。まあ、すぐにめーくんから当然の如くくっつくな離れろバカイコ、なんてお言葉をいただいたのだけれどね。それからすこしだけいつもの言い合いをしながら、めーくんの返事を聞いていないことを思い出した。
「っていうかめーくん、話はぐらかしてない?」
「……さて、何の話だったか?」
「いじわるっ。いいもん、それなら嫌って言ってもうたっちゃうんだからね、その時になって惚れ直しても知らないんだからっ!」
「惚れ直す、って、いつの間に俺はお前に惚れてたんだ?」
「めーくんひどい! 乙女心を踏みにじって!」
 あたしがぷくっと頬を膨らますと、めーくんは笑って、その頬を押しつぶした。ぶっと変な音がする。
「……ッ、めーくん!」
 けらけらと笑うめーくんは、あたしの怒った顔を見てさらに愉快そうに笑った。楽しんでる、あたしで遊んで楽しんでるわ、このひと! 反論をのせて口を開きかけたとき、ひとしきり笑った後のめーくんが先に言葉を発した。
「つーか俺、お前からうた、うたって貰ってもあんまり嬉しくねーし」
「え……?」
 やっぱり、嫌なんだろうか。瞬時に怒りも抜け落ちて、あたしは呆然とした。けれど、めーくんはその優しい掌をあたしの頭の上にのせて、くしゃくしゃと髪をなでながら、
「俺の貰った曲、お前もうたったことあるんだろ? どうせなら、いつかふたりでうたってみたいよな」
 そんな風に、言ったのだ。

1<< To Be Continued... 3<< (C)KERO Hasunoha
******

カイコちゃん、メイトさんと一緒にうたいたい理由を話すの巻。

めーくんをかっこよく、めーくんをかっこよく、めーくんをかっこよく、と念じて
書いているつんばるです。念じたからってヘタレ臭がぬぐえるわけでもないのに!
私の中での変態カワイイカイコたんが爆発しました。なんという乙女でしょう。
変態乙女は、書いていて大変萌えます。見るのも書くのもだいすきです、変態キャラ。

カイコちゃんの回想部分は、西の風さんの「恋の歌を歌おう」から一部引用してます。
元テキストはこちら⇒http://piapro.jp/content/snmvf5nl6lxk6gmj

******

ブログランキング参加中。
ブログランキングバナー
[ 2009/07/15 03:28 ] 小説系 | TB(0) | CM(0)

コメントの投稿














管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

この記事のトラックバックURL
http://phantomlake.blog58.fc2.com/tb.php/1301-2e7dd0d3


上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。