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迷える羊と羊飼いそのさん! 

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迷える羊と羊飼い――Lost sheep and Lost shepherd.
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3.迷える羊と羊飼い

 ……勢い込んで部屋に帰ってきたものの、集中なんてできやしない。音源を聴いていても、耳の中に響くのは、さっき自分が吐いた本音に近い、けれど決して本心ではない暴言。追っていたはずの音符は目の端から滑り落ちて、瞳に浮かぶのは、普段のあっけらかんとしたカイコからは考えられないほど、感情の抜けきったようなあの表情。――ああくそ、こんなんじゃあ何もできない。
 集中するには、練習室がいちばんいい。俺はそう判断して、楽譜を片手に、据え付けられた練習室に向かう。
 練習室の中で、俺は発声練習を一通りこなし、音源を流し、楽譜を追いながら歌ってみる。
 うたっているときは、うたっているときだけは無心になれるはずなのに、胸のあたりにしこりがあるような、胃が重いような、そんな気分が膨らんでくる。ラストサビの部分が過ぎて、ギターの音がフェードアウトしていく。イライラしながら、音源をリピートさせ、またうたう――が、間奏やブレスの隙間に、かすめるようにちらつくその姿に、焦りは募るばかりだ。3度目のリピートをかけようとした時、背後から声が掛かった。
「……リズムが取れてないわよ、メイト」
「うそっ」
「嘘じゃないわよ、『けれど確かに』のところ。正確とは言い難いわね」
 声で姉貴だとわかった途端油断して、子どもみたいな返答をしてしまったが、姉貴は的確に俺の欠点を衝いてきた。仕事魔人の音楽馬鹿たる姉貴らしい。俺が3度目の練習を通すのを、部屋の中で聴いていた姉貴は、音が終わったとき、ため息とともにこう言った。
「メイト、直ってない」
 あ、やっぱり……ていうか、わかってるよ、そんなこと! でも、イライラが募ってどうにも集中できないのだ。姉貴がいるから緊張するとか(それもあるけど)それだけじゃないのだ。
「……無理してかっこつけようとするからそうなんのよ、バカ」
「ッ、誰がッ!」
 姉貴にバカと言われる人物は、相場が決まっている。というか、それはほとんど唯一カイトだけといっても過言ではない。それなのに、その呼称を使われたことに腹が立った。それに、なんの言いがかりだ、俺がかっこつけようとしているだって? 誰に対して!
「合わせたいなら合わせたいって言えばいいのよ、『さっきはごめん、練習付き合って』って、それだけですむでしょう?」
「……何の話だよ」
「話のはぐらかし方もいい加減ワンパターンよね。あんた、触れられたくないこと言われたとき、いつも『何の話』で切り返す癖、自分で気付いてる?」
 咄嗟に切り返せなかったのは、姉貴の威圧感に気圧されただけではなく、図星だったことがいちばんの理由だ。しかし、口癖というのは直そうにもなかなか直らないものだ。むしろ無意識に口に出るからこそ口癖なのではないだろうか。俺が黙った一瞬の間に、姉貴は一気に畳みかけてきた。
「聞いたわよ、カイコから。あんた、カイコに一緒にうたいたいって言ったんでしょ。せっかくあんたの方からデレたんだから、一緒にうたえばいいじゃない」
「デレたとか言うな。気持ち悪いだろ」
「あんたのそれがツンデレじゃなくてなんだって言うのよ」
 それを言うなら、姉貴のそれだってツンデレじゃなくてなんだと言うんだ。というか、カイコ、兄姉相手に何を話した。……まあいい。どうせこの姉に、俺の事情なんか筒抜けなのだ。
「……まだだめだ」
 まだ、一緒にうたえるレベルじゃない。先にうたをうたったのはカイコの方だ。俺がちゃんとうたえるようになって、あわよくばカイコよりも上手くうたえていなければ、合わせるなんてとんでもない。あいつは、俺にとってデュエットしてみたい相手だけれど、同時に、うたをうたう仲間でありライバルでもある。負けられない。負けたくない。男には譲れない一線があるのだ。それが、俺にとっては仕事であり、うたの実力。ビジュアル仕事の量では、女のカイコに敵わない。もらえる曲の数でもカイコに劣る。これで、うたの実力まで負けていては、面目丸つぶれだ。惚れた女になんのアドバンテージもとれないなんて、男が廃るってものじゃないのか。……いやいやちょっとまて、誰が、誰に惚れたって?
 思考が(あらぬ方向に)くるくると回り始めた俺を見て、姉貴が明らかに呆れた笑顔で近づいてきて、くしゃりと俺の頭を撫でた。
「それがかっこつけだって言ってんの。あんたがちょっとなさけないとこ見せたくらいで、呆れられるとか嫌われるとか思ってんじゃないわよ」
「……姉貴、それ体験談? ノロケ? そういうのよそでやってくんね?」
 問答無用の鳩尾をガードできなかったのは、仕方がないとしか言えない。

「兄さま、やっぱり私謝ってきた方が……」
「まあまあカイコ。そう焦らなくても大丈夫だよ。アイスひとくちあげようか?」
「いりません」
 そう言う兄さまはもう2個目よね。めー姉さまが見ていないからって、調子に乗って食べすぎじゃないかしら――と言ったところで、そのスプーンが止まることはないのだろうし、ため息をつくだけに留めた。
 兄さまのおなか具合も気になるけれど、一番気がかりなのはめーくんだ。本当に、あたしのことを嫌っていないのだろうか。ちらちらと、めーくんが入って行った(そしてめー姉さまも入って行った)練習室の扉を横目で見ていると、兄さまがふふっと笑い声を洩らした。
「カイコは我慢ができない子だね」
「? どういうことですか?」
 兄さまは、誇らしげに胸を逸らせた。
「めーくんも意地っ張りさんだからね。たぶん、カイコにひどいこと言ったなって反省してるけど、うまくごめんが言えないと思うんだ。めーちゃんもそうだしね」
「……それは、体験談ですか? ノロケですか? だったら私聞かなくてもいいですよね?」
「体験に基づいたアドバイスだよ。聞いておいて損はないとおもうけど」
 ノロケ、は、否定しないのが兄さまらしい。
「自分が悪かったって思ってる時に、相手から謝られると、余計に居心地悪くなるきもち、わかるかな。自分が謝らなきゃいけないと思ってるのに、相手に謝られると、何でお前が謝るんだ、って怒りたくすらなるって」
 そういう状況になったことは少ないが、そういう話なら、少しはわかる気がする。
「たぶん、カイコが謝っても、めーくんのごめんは引き出せないよ。だからね、こういうときはアイスでも食べてのんびり待ってるのが一番いいの」
 カイコも食べる? と冷凍庫を覗いた兄さまに、再度いりませんと宣言して、あたしはふと練習室の扉の方を向く。と、めー姉さまが出てくるところで、その後ろから、なんだか憮然とした表情のめーくんが出てきた。もう練習終りなのかな、早いなあと思っていると、めーくんが仏頂面のままこっちに来て、あたしの手を取った。
 って、ちょっと! 痛い、痛いよめーくん! あたし手首細いんだから手加減してよ、折れる!
「な、なにめーくん、どうしたの!」
 そのまま練習室に連れ込まれて、ばたんと扉を閉められた。え、なになにこの状況、ちょっと待って、やだめーくんたらまだお昼なのに、だめよカイコいくら好きな人でもこんないきなり、ああでもちょっと強引なめーくんもカッコイイ! ……じゃなくて!
「めーくん、いったいなんなの!」
「さっきは悪かった。言い過ぎた。ごめん」
 普通なら一回では聞き取れないほどの早口で一息に言いきっためーくんの顔は、仏頂面ながら顔色は真っ赤だ。それが彼なりの不器用な謝罪なのだと気づくのに、あたしは少しの時間を要した。慌ててあたしもごめん、と言いかけたところで、再びめーくんの声が降ってくる。
「……この曲うたったことない姉貴じゃ話になんねーから……一緒に、練習、付き合ってくんね?」
 遠まわしなその表現に、また少しだけ首をかしげそうになったけれど、あたしは、にっこり笑って答えを返す。
「うんっ、一緒にうたいましょ!」
 そのときのめーくんのほっとした顔と言ったら、いままでのどの顔よりもかわいくて、あたしは思わず抱きついた。いつもみたいに離れろとか言われるかな、と思ったけれど、そのあとしばらくは、めーくんの腕があたしを振り払うことはなかった。

2<< Fin. (C)KERO Hasunoha
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メイトさんとカイコちゃん、一緒にうたおうの巻。

終わってみたら思いのほか亜種が楽しかったです! 久々の短編で心も洗われた!(笑

ちなみに、作中でメイトさんが貰った曲は、ロストシープ(うららさん/マカーP)がモチーフ。
……って、タイトルでばればれですね。うん、知ってた。KAITO用課題曲っていった時点で
わかった人も多かったのではないかと思います。いい曲です、だいすき!
原曲【http://www.nicovideo.jp/watch/sm1652415】
KAIKO版Lost Sheep【http://www.nicovideo.jp/watch/nm3723998】
MEITO版Lost Sheep【http://www.nicovideo.jp/watch/sm6648436】
この話を書くにあたり、KAIKO版とMEITO版のロストシープふた窓してみたらやばかった!

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[ 2009/07/15 03:32 ] 小説系 | TB(0) | CM(0)

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