スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
[ --/--/-- --:-- ] スポンサー広告 | トラックバック(-) | コメント(-)

カイメイだよ! 

何番煎じになるかわからないけれど、カンタレラで一本書こう! と決めて、カンタレラの
 各 種 P V をモチーフにするという、斜め上の(謎の)努力をしました。そういう意味で、
解釈物語とは違った仕様です。家族設定・カイメイ風味です、苦手な方は注意!

******

「めーちゃん、おれは、おにーちゃん失格です」
 それはそれは悲痛な面持ちで言いきって、カイトはぽろりと涙を落した。

******
そのPV、毒入りにつき。 ――A song with POISON!
*****

「ただいまあーっ!」
「メイコ姉、おなかすいたー!」
「あっコラ、リン! 靴飛ばすんじゃねーよ!」
 お、帰ってきたか。私は、リビングの机に音源とヘッドフォンを置いたまま立ち上がる。
 最初に部屋に飛び込んできたのは、我らがボーカロイドの歌姫、ミク。そして、幼いながらもデュエットを歌わせれば最強との呼び声も高い、リン・レンが続く。
「おかえりなさい、寒かったでしょう」
「おねーちゃんっ、今日のごはんは何?」
「今日はあり合わせだけど、お鍋よ」
「おおっ、久しぶりのお鍋!」
「すぐ準備するから、手洗いうがいしてらっしゃいな」
「はーい!」
 どたばたと洗面台に走っていく3人を見送って、そういえば、もうひとりはどうしたのかしら、と玄関を覗く。今日は4人とも同じ仕事場だったはずだから、一緒に帰ってきているはずなのに。
 その人は玄関でその長身を屈めて、弟妹たちの靴を揃えていた。
「なんだ、いるじゃない」
「あ……ただいま」
 へにゃっと笑ってから立ち上がったのは、芸幅に定評があると評判の男性ボーカロイド、カイト。
「おかえり。アンタも手洗ってから来なさいよ」
「うん。……ねえ、めーちゃん」
「うん?」
「……なんでもないや。手、洗ってくるね」
 言いかけてやめないでよ、と言いかけて、私は口を噤んだ。
「……うがいも忘れちゃダメよ?」
 いつもどおりのその笑顔に、すこしだけ、影が落ちていた気がした。

 夕食は相変わらずガヤガヤとしたものだった。私はお鍋に具を入れたり出汁を足したりしていたし(みんな食べざかりなのだ)、ミクはネギばっかり食べたがるし(多めに入れておいてよかった)、リンとレンはお肉の取り合いをするし(野菜も食べなさいと白菜を投入してやった)、カイトは箸の早い弟妹たちの世話をして、ごはんをよそっていた(そしていざカイトが食べようとすると、弟妹の「おかわり」コールが来る。なんと不憫なことだろう)。そんな夕食の折、話題になるのはやっぱり「仕事」の話。
 仕事、なんていうと、重苦しい気がするけれど、私たちボーカロイドの仕事は歌うこと。今日はどんな歌を歌ったとか、どの曲にPVができるとか、新曲の楽譜をもらってきたとか。私たちの仕事に対する話題は、おおむね明るくて楽しい。
「今日は4人揃ってPVの撮影だったっけ? どうだった?」
 一瞬、間があいた。……え? なんで?
「うんっ、相変わらずセットが豪華だったよ! 監督さんもいい人だったし!」
「そうそう! リンがな、すげえかわいいワンピース着せてもらってたんだ!」
 ミクとレンが早口でまくし立てる。今日は、4人ともある曲のプロモーションビデオを撮ってきたのだ。その曲は中世の大家が使用した毒薬がモチーフの曲で、タンゴ調の激しい曲調もさることながら、歌詞が大人っぽくて素敵な曲だ。最初はカイトのヴォーカル、ミクのコーラスで人気が出て、今回はレンとリンがカバーしたもののPV撮影だったのだという。
「ま、オレは窮屈だったけどね……自分の衣装」
「えー、レンくんの燕尾服もかっこよかったよ、七五三みたいで!」
「ミク姉、それほめてねえだろ……」
「そういえば、カイトのときの衣装もすごかったわよね」
 ぴし、と、何かにヒビの入る音がした、気がした。見ると、カイトとリンの顔が固まっている。
「そ、そう! 前にミクが着たみたいなやつとはちょっと違うけど、リンちゃんすごく可愛かったよ!」
「ほ、ほんとに! 可愛くてコレほんとにリンかと思うくらい!」
 ミクと、今度もレンがつけたす。前回の、つまりカイトとミクのときのPVは、ストーリー・セット・衣装と、どれをとってもかなり凝った豪華なものだった。カイトがカイトらしからぬ黒基調の衣装を着ていたり、ミクがウェディングドレスさながら真っ白なドレスを着ていたり。ダンスを踊るシーンなんか圧巻だった。普段の2人がヘタレ顔でアイスをほおばっていたり、ネギを振り回してばっかりいたりするので、そのギャップも相俟ってか、思わず感心させられたものだ。きっとリンもすごく似合っていたに違いない。それに、レンの燕尾服も気になる。
「私も見たいわあ。PVできたら、みんなで鑑賞会しないとね」
 がしょーん、と盛大な音を立てて、何かが壊れた音がしたのは……気のせいかしら?
「オレ、風呂入る!」
「あっ、り、リンが先に入ろうと思ってたのに!」
「み……ミク、今日マスターからもらった新譜読まなきゃいけないからお部屋に行くね!」
「あら、みんなごちそうさま?」
 ごちそうさま! と、口々に言って、3人は席を立って行った。緑と黄色の後ろ姿を見送って、私は鍋底に沈んでいた豆腐をすくい上げた。
「相変わらず落ち着きないわねえ……ね、カイト」
「え、あ……うん」
 残された青髪の男は、今まで固まっていたのが急にとけた、とでもいうように目を大きくし、曖昧に笑った。
「おれも部屋に行くよ。お風呂、おれの番になったら呼んで」
 その大きな背中を見送って、
「……どうしたのかしら?」
 私は、ひとりごちた。

 食事中といい、食事の後といい、あのおしゃべりで甘えん坊なカイトがひとりで部屋に籠るとは珍しい。そういえば帰ってきたときからちょっとおかしかったかも知れない。具合でも悪いのだろうか。PVの撮影というのは意外に緊張するから、もしかして疲れたのかも知れない。いつもなら、「めーちゃん、手伝うよー」とか言いながら、食器洗いを手伝ってくれたり、ソファでリン・レンの双子と遊んでいたりするのに、部屋に見知った青が見えないだけで、ずいぶん部屋が広くなったような気分だ。なんだか食器洗いの効率も落ちている気がする。鍋だったから、洗いものは少ないはずなのに。いま、部屋にはお風呂の順番待ちをして読書中のレン(なんだかんだで順番はリンに譲ったようだ)と、食器洗いをしている私しかいない。食器を洗う水音と、食器のぶつかる音が、やけに大きく響く。ひとりで台所に立つ、というのは、存外淋しいものだ……別に、誰にいてほしいとかじゃないけれど。
「……おねーちゃん、手伝おうか?」
 ミクが、ひょこりと顔を出してきた。
「あら、楽譜はいいの?」
「う、うん」
「じゃあ、この食器拭いて戻してくれる?」
「うん!」
 この素直な妹は、なんと姉思いなことか! ミクの優しさに感謝しながら、甲斐甲斐しく働くミクを見て、先ほどの疑問を口にしてみる。
「今日のカイト、ちょっと変じゃない? 朝はあんなじゃなかったと思うけど。もしかして具合悪いとか言ってた?」
 ミクと、なぜかソファに座ったレンもが、びくりとする。え、何。
「……具合悪いっていうか、なんていうか……ちょおっと疲れただけ、かな……?」
「もしかして、撮影中もそんなだったの?」
 それならもしかして撮影のスタッフさんたちにも迷惑をかけてしまったのではないだろうか、と、そこまで考えの回ってしまう自分がたまに憎らしい。カイトだってそこまで子どもではないのに、どうしても世話焼き根性が出てしまう(……カイトに限ったことではないけれど)。
「えーと……」
「リンのせいだよ」
 ミクが言い淀んだのを無視して、突然会話に割り込んできたのはリンだった。お風呂上りで髪が湿っている。
「どういうこと?」
「……リンが、泣いちまったんだよ。撮影中」
 不貞腐れたように、レンが言う。
「……?」
 話が見えない。
「えーと、ね。今回のPVね、ミクとおにーちゃんはゲスト扱いなの。だからそんなに出番はないんだけどね」
 ミクが、たどたどしく説明する。いわく、今回のPVはレンとリンがメインなのだ(まあ、リンとレンがカバーした曲のPVなので当たり前といえば当たり前の話だ)が、途中、ほんの少しだが、ミクとカイトの絡みがあるらしい。しかし、それだけならカイトがそれほど疲れる、というのの訳がわからない。事実、ミクはそんなに疲労していないのだし。そう言うと、ミクはほんとうに申し訳なさそうに説明を続けた。
「……ベッドシーン、なの」
「ふうん……ってえええ!?」
 あやうく拭いていた皿を取り落としそうになった。混乱して処理が追いつかない。なぜこんなに混乱しているのかもわからない。
 ベッドって。え。なに。ちょっと、どういうこと?
「あっ、ででででもね、ちがうのよ! ちゃんと服着てたし! ミクが寝てるだけだったんだけど!」
「なんだ、びっくりしたー……」
 って、なに、私は何に安堵しているのだ。……きっと、ミクのことが心配だったのだ、うん、そうに違いない。
「ミク、アイドルなんだから少しは自重しないと」
「お仕事だもん、仕方ないじゃん……前回だって口にちゅーとかの予定があったくらいだし」
「あー……」
 そういえば、前回の時も台本にそんなシーンがあった。が、それは「妹にそんなことできる訳ないじゃないですか!」とカイトがごねて、その演出はなくしてもらったらしい。出来上がったものを見ると、編集で「それっぽく」なっていた。リンとレンからからかい半分にいじられていたカイトは、その後なぜか私に向かって「真似だけだったんだからね!」と半泣きで謝ってきた。からかわれたくらいでなにも泣かなくても、と思ったものだが、なるほど、台本担当者はよほど耽美なPVにしたかったらしい。
「で、でね、その、あの曲だと、おにーちゃん……鬼畜設定じゃない」
 そうなのだ。なぜかその曲でのカイトは一様に「鬼畜っぽく」「色っぽく」「悪そうな」というキャラ設定がなされているのだ。普段「ヘタレ」「仕事を選べない」「アイスべきバカイト」なんて言われている奴が、だ。これには本人も戸惑ったらしいが、仕事となれば何でも本気でこなしてしまうカイトのこと、PV の製作は大成功。周りからは「見直した」「もうバカイトって言えねえ」なんて言葉まで出てくる始末。歌を歌っていても、役や設定への移入に関しては、5人の中で群を抜いているというのは、かの戦隊をモチーフにした曲やPVで証明済みだ(まあ、アレは割とみんなノリノリだったけど……)。
「普段あんなでもおにーちゃんの本気の演技って、すごいじゃない。圧倒されるっていうか、覇気があるっていうか。それに、あの曲だから余計にその、そんな感じで……」
「オレだって、ネタ歌以外で一緒になったときすげえ鳥肌立ったし、でもリンは……」
「だって、カイト兄、目が怖かったんだもん……」
 オレンジ色のバスタオルをかぶった状態で、胸の前まで垂れたタオルの端を、リンの小さな手が色をなくすまでぎゅっと握っている。リンは、ぎゅっと口を真一文字にひいて、顔をくしゃくしゃにして、私と目が合うと、今にも泣きそうな顔で一気にまくし立てた。
「カイト兄っていっつもヘラヘラ笑ってるんだもん、あんな怖い顔初めて見たからびっくりして」
 でもね、カイト兄が怖いんじゃないの、びっくりしただけなの。必死に泣くまいとしているリンを抱きよせながら、ようやく話が見えてきた。要するに、あまり「カイトの本気」を間近で見たことのないリンは、「すごい」を通り越して「怖い」と思ってしまったのだ。それが思わず涙になってしまったのだろう――そりゃ、カイトにとってはショックだろうなあ。すっぽりと腕にリンをおさめて、タオルの上からその丸い頭を撫でる。
「そういえばミクもそんなこと言ってたわね」
 原曲の――つまり、カイトのメインボーカルにミクのコーラスの入った版の――録音が始まったばかりの頃、カイトのいないところでミクがぼやいていたのを思い出す。
 歌ってる時のおにーちゃん、なんか役にハマりすぎてちょっと怖いかも。
「……う、うん。でもミク、もう慣れたよ!」
「そりゃお前、何回もカイト兄と一緒に仕事してるから」
「なによ、レンくんだって涙目だったくせに!」
「う、うるさいなっ! オレ、風呂入ってくる!」
 私の腕の中で口をへの字に曲げたままのリンの頭をさりげなくなでてから(このさりげない思いやりが、この姉弟のかわいいところだと思う)、レンは風呂場へと向かって行った。
「そのあと、リンちゃんはすぐ泣きやんだんだけど、スタッフが動揺しちゃって」
「なるほどねえ……」
「リン、みんなにめーわくかけちゃった、カイト兄もすごく心配して、でも」
 くっと息をのんで、リンは私の目を見て言った。
「悪いのはこっちなのに、すごく申し訳なさそうな顔してたの! ちゃんとカイト兄のせいじゃないよって言ったけど」
 でも、絶対気にしてるよね。そう締めくくって、リンはまた俯いてしまった。
 そうだね、とも、ちがうよ、とも言えなかった。答える代りに、私はリンをぎゅっと抱きしめた。

 リンやレンが床につき、ミクが自室に入った深夜。ワンカップ片手に楽譜を読みながら、私はソファに体を預けていた。ぱたん、とドアの開閉する音。風呂から上がってきた我が家の長兄に、私はソファから声をかけた。
「リン泣かせたんだって?」
 軽い調子で言ってみたら、重く動いていた気配が止まる。首だけ後ろを向いて、その顔を見ようとして――ぎょっとした。
「ちょ、なんで泣きそうなのよ!」
「……」
「あ、い、言い方間違った! リンが、泣いちゃった、んでしょ?」
「……めーちゃん」
 眉尻が下がって、なんとも情けない顔になったその人は、青いバスタオルを頭に乗せたまま――なんだか、さっきのリンととても似た格好と表情で、
「めーちゃん、おれは、おにーちゃん失格です」
 言いきって、ぽろりと涙を落した。

To Be Continued... >>2 (C)KERO Hasunoha
******

ブログランキング参加中。
ブログランキングバナー
[ 2009/07/15 04:02 ] 小説系 | TB(0) | CM(0)

コメントの投稿














管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

この記事のトラックバックURL
http://phantomlake.blog58.fc2.com/tb.php/1304-6b1a541b


上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。