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カイメイそのに! 

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そのPV、毒入りにつき。 ――A song with POISON!
*****

「めーちゃん、おれは、おにーちゃん失格です」
 それはそれは悲痛な面持ちで言いきって、カイトはぽろりと涙を落した。

「めーちゃん、おれは、おにーちゃん失格です」
「何回も聞いたわ」
「もうどうしたらいいかわかんないです」
「それも聞いたわ」
 我が家で一番背が大きくて、たぶん一般的には大黒柱とか呼ばれてもおかしくないだろう立ち位置にいるはずの彼は、今、私の膝に突っ伏してぐずぐずと鼻をすすっている。
「リンに怖がられた……」
「びっくりしただけなんだって言われたでしょ?」
「でも泣くほどびっくりって、それ、どんだけだよ!」
 がばあっ、と膝から離れた顔を見ると、青い瞳は涙でいっぱい、というか、涙があふれ出している。鼻は赤くて、口はへんにゃりと曲がっている。
「前はミクにも怖がられたみたいだし……」
「あら、わかってたの?」
「やっぱりミクも怖がってたの!?」
 あ、地雷踏んだ。ごめん、ミク。再びうんうんと唸りだした我が家の長兄を下に見つめて、私は肩を落とした。そうとうショックを受けているらしい。
「何がしたいの」
「だからどうしたらいいかわかんないんだってばあ……」
 何回目かになる問いを投げかけるが、さっきからこの調子だ。どこから出てくるのだ、この大量の汁類は。再び膝に突っ伏した頭をなでながら、少し大きく呼吸した。ボーカロイドは歌うのが仕事、当然耳もいい。だから、これがため息だとばれないように、そうっと、呼吸に混ぜた。
 そりゃあさ、と、カイトはぼそぼそと口を尖らせた。
「そりゃあさ、お仕事だしそーいう設定なんだから仕方ないけどさ、もしかしてやりすぎてるんだったら言ってくれればもう少しおれだってなんとかするようにがんばるよ? ダメならダメって言ってくれていいのにさ、なんだかみんな優しすぎるよ……」
 カイトは不遇の時代が長過ぎた――その間に負け犬根性が培われたというか、カイトは、自分を必要以上に卑下して評価してしまうことが多い。今回も、そこに引っ掛かっているのだろう。褒められれば、それなりに(ときに驚くほど大げさに)喜ぶけれど、それでも生みの親にまで貼られてしまった「失敗作」のレッテルは、彼を悩まし続けている。
「もともとそーいう性格じゃないんだからさあ、おれ。そりゃ、あんな風にごーいんなのとか、ちょっと憧れたりもするけどさ、みんなよかったよとか雰囲気出てるよとか言うけどさあ」
 でも家族にまで怖がられるなんて、おれ、やだよぅ……。尻すぼみになる声は、歌っている時とは比較にならないほど弱々しい。それでも、こうして仕事に対して不満を言えるようになったのは、彼にとっては進歩なのだ。
 あんたにだって仕事を選ぶ権利はあるのよ。そう言って窘(たしな)めたこともあるけれど、この男は、笑って流した。――おれは、仕事があるのがうれしいことだと思うもの、と。どんなネタ歌でもネタPVでも、真剣にやっていて、それで本気が過ぎて悩んでしまうなんて、なんて生きにくい体質なのだろう。
 でも、可哀そうがってばかりもいられない。そろそろ、コイツに現実を突きつけてやらなければ。
「さっきねえ、リンが」
 すごい勢いで顔をあげたカイトは、捨てられた子犬のような顔をしてこっちを見上げた。……今にも「しーねーばーいーのにー」というBGMが聞こえてきそうだ。
「……みんなに迷惑かけちゃった、カイト兄にも心配かけたって、言ってたの。リンも気にしてるみたいよ?」
「い、妹にまで気を使わせて……おれ、やっぱり」
「いいから最後まで聞きなさい、バカイト」

 でも、絶対気にしてるよね。そう締めくくって、リンはまた俯いてしまった。
 そうだね、とも、ちがうよ、とも言えなかった。答える代りに、私はリンをぎゅっと抱きしめた。
「でもね、メイコ姉」
 リンが顔をあげると同時に、頭に乗っていたオレンジのバスタオルがひらりと肩に落ちる。細いはちみつ色の髪が、さらりと私の指をすりぬけた。
「カイト兄って、本気出すとすごいんだよ。リンびっくりしたよ。カイト兄って実はすごい格好いいボーカロイドなんじゃないかって」
 大真面目な顔で、リンが言ったので、思わず吹き出してしまったが、隣ではミクも神妙にうんうんと頷いていた。私が吹き出したのを見て、リンがむくれて怒鳴り気味の声を上げる。
「笑うとこじゃないよメイコ姉!」
「そうだよ、おねーちゃん! おにーちゃんはすんごーくたまーにだけど格好いいんだよ、おねーちゃんの次に! 普段ヘタレでアイスでバカイトでも、本番になると目つきが変わるんだから! 撮影中のおにーちゃんなんか、スタッフ誘惑しまくりなんだから! うっかりミクまでおにーちゃん格好いいとか思っちゃったじゃない! あっでも安心してね、ミクはおねーちゃん一筋だから!」
「ミク、ちょっと論点ずれてきてない?」
 リンの発言には吹いたが、ミクの言いようにも、笑いがこらえられない。ミクの言葉の後を継いで、リンがやや早口でまくしたてる。
「あのね、カイト兄はね、普段あんなへにゃへにゃでもね、すごいんだよ。リンがびっくりしたのはね、カイト兄が怖かったの……も、あるけど、でも、それだけじゃなくて格好いいんだよ! レンには真似できないね、絶対。カイト兄みたいな格好よさはレンには出せない」
「んだとコラァァァ! リン! 誰がなんだって!?」
 バターン! と風呂場に通じる扉が開いて、怒髪天を衝く勢いでレンが出てきた。
「え、カイト兄が格好よくてレンはそうでもないって話」
「そんな訳ねーだろ! あのヘタレで能天気でバカでアホでアイスな奴よりオレのが絶対格好いい!」
「……ミク姉より身長ないくせに。リンとけんかしたって負けるくせに」
「せ、成長期になればミク姉なんか敵じゃねえよ……たぶん! カイト兄よりでかくなってけんかだって負けねえんだかんな! 覚悟しろよリン!」
「ぜええええええええったい、無理! レンよりリンの方が強いもん! てゆーか、ボーカロイドに成長期とか、ないし!」
「ところでレンくんお風呂じゃなかったの?」
「……着替えのぱんつ忘れて取りに来た」
「ばーかばーか! ヘタレン! ショタっこ!」
「うるせーリン! ショタ関係ねえだろ!」
 すっかりいつもの調子でけんかを始めた双子を見て、今度こそこらえきられなくなって、声を出して笑う。散々こき下ろしているくせに、みんな最後には結局「カイトお兄ちゃんは格好いい」ことになっているのだ。
「それにね、リンが泣いたの、一番に気づいたのはカイト兄なんだよ。撮影中断してリンのとこにきてくれてね、だっこしていーこいーこしてくれたの、いまのメイコ姉みたいに」
「まあ、すっげえ慌ててたけどな。『わあ、ごめんね、リン、ごめんね、ああああ』とか言って」
 レンのものまねは、似ているようで似ていなくて、それもまた笑いを誘った。
 そして、ミクがふんぞり返って言葉をつづけた。
「優しいだけじゃなくて、気配りもできて、でもお仕事はいつも真剣で、そしたらなんか」
 見直しちゃったよねー。
 そう言った弟妹たちは、ある者は憎まれ口をたたきながら、ある者は眉尻に浮かぶ涙をぬぐいながら、ある者は偉そうに仁王立ちしながら、それでも一様に、誇らしげに微笑むのだった。

「だあれも、あんたのこと本気で怖いなんて思ってないわよ」
「……ほんとうに? リンもミクも怖がってないの?」
「それどころか、あのレンまであなたのことすごいって言ってるのよ?」
「……嘘じゃなくて?」
「心配ならあの子たちに直接きいてみればいいじゃない。疑われるなんて心外ね」
 子犬のように見上げてくる青の双眸を見つめてそう言うと、カイトはまた俯いて、ごめん、と涙を零した。ああ、泣かせたいわけじゃないのに。
 ミクもリンもレンも、本気でカイトのことを嫌うなんて、できるはずがないのだ。だってこんなにも純粋で、気が弱くて、泣き虫で、まったくまるで子供みたいで、それでもときに格好良くて、仕事にはいつも真剣で、いざというときに頼りになるお兄ちゃんなんて、なかなかいない――なんて、カイト本人には言ってやらないけれど。
「大丈夫、誰も本気でカイトを嫌ったりはしないわ」
 それにカイトは、今やミクや鏡音の双子にも負けず劣らずの人気がある。仕事を選ばない、オチ担当と呼ばれながらも、「愛すべき馬鹿」の地位を獲得した。そしてやがて、ネタ曲ではない本気曲での歌が評価されれば、たちまち「カイトの本気」として皆に受け入れられ、さらに人気は高まった。最近では、曲を聞いてきているんだかたんなる追っかけなのかよくわからないようなにわかファンまで出てくる始末。
 そう、このカイトというボーカロイドは、文字通り万人に愛されているのだ。ともすれば私が嫉妬してしまうほどに。
「きちんと本気で仕事して、それが評価されるなんて嬉しいことじゃない。自信もちなさい」
 ああ、これは自分に対する皮肉かしら? なんて思いながらも、それでも、カイトが皆に好かれているのはほんとうなのだから、カイトはもっと自信をもつべきなのだ。弟妹たちは皆あなたを慕っているし、歌もちゃんと評価されている。

「……みんな、あんたが大好きよ?」

 言うと、俯いていたカイトが驚きの表情を浮かべて、顔を上げた。驚きで涙も引っ込んだらしい。
 ……私、そんなに変なこと言ったかしら? そんな覚えはまったくないのだが。
「めーちゃん、あの、なに?」
「へ? 何が?」
「なんて言った? さっき……」
「みんな、カイトのことが大好きなのよって言ったと思うけど」
「それ、って」
 みるみるカイトの顔が赤くなる。視線が逸れる。横を向いたカイトは、耳まで真っ赤だった。
 なに。なんで? まさか泣きすぎて熱でも出てきたか。
 もごもごと口を動かしているカイトに、なんなのよ、と、一言、怪訝に思って声をかけると、ゆっくりと私の方に向かい直したカイトは、泣きはらした目を上目遣いにして、私を見上げた。
「……め、めーちゃん、もっ」
「うん?」
「めーちゃんも、おれのこと、すっ、……すき?」
 顔が熱くなった。え、なに、なんで? なんで私まで熱くなるのよ意味わかんないなんなのこれ――いやいや落ち着け、冷静になるのよ、メイコ。
 カイトが恥ずかしそうにこちらを窺っている。
「そ、そりゃあっ……嫌いなわけ、ないじゃない」
「ほんとう?」
「ほんとうよ」
「じゃ、じゃあさ、じゃあっ……あのっ、別に、強要はしない、けどっ」
「は? なによ、」
「……さっきの、もう一回……」

 おれのこと、すきって言ってください。

「……そしたら、おれ、もう泣かないから」
「その程度で、立ち直れちゃうわけね……」
「めーちゃんだから、だもん。あとその程度って言うな」
 青の双眸が、しっかりとこちらを見据えてくる。
「めーちゃん、おれ、誰に嫌われても、めーちゃんがおれのことすきって言ってくれたら、がんばれる。ていうか、誰に嫌われてもいいけど、めーちゃんに嫌われるのはいや。生きていけない」
 だからおねがい、と、真摯な(しかし目の周りが腫れているので、若干の幼さが垣間見える)表情で見つめてくるカイトに、思わず言葉をかけるのすらためらわれた。その程度でがんばれるなんて、ずいぶん安いがんばりですこと、とは、思っても、口に出して言うことはできなかった。気圧された、という表現が適切なこの状況、言葉の代わりに口から洩れるのは、「あ」とか「う」とか「えっと」とか、意味をなさない呻きばかりだ。なんとか、言葉を紡ごうと努力する。ああ、言葉って、こんなに不自由なものだったかしら。
「い、一回しか、言わないから」
「うん」
「……ぅ、ちゃんと、聞きなさいよ」
「うん」
 相変わらず見つめてくる青い瞳から、ますます目が逸らせなくなった。
 どうしよう、なんでこんなに緊張するんだろう。そうよ、頼まれたから言うだけよ、決して、決して、こいつに向かって、私が、そんな……好き、だなんて、そんなこと、思っているわけ、ないでしょ――!

「……カイトが好き、よ」

 なんて、思っているわけ、ない? ほんとうに?
 この腕の中にいる彼は、こんなに優しくて、大きくて、こんなにも――愛おしいのに?
 そっとカイトの頬に触れる。女の子らしくぷにぷにしているミクや、幼さの残る肌触りのリンやレンとは違った、おとこのひとの、頬。ひとしきり泣いたせいですこしだけ赤みを差した、かたちのいい鼻筋。自然と縮まる彼との距離。その青く澄んだ瞳に引き寄せられるように、私は――

「リンだってカイト兄すきだもん」
 いまこの状況で聞こえるはずのない声にびっくりして扉の方を振り向くと、寝間着のままのリンが、上着の裾を握りしめて突っ立っていた。瞳にはうっすらと涙を浮かべ、それでも涙は流すまいと、必死に唇を噛んでいる。その立ち姿に、いつもパワフルなリンの、力強い部分を全部こそげ落としたような印象を受けた。
 一瞬、ぽかんとしてしまった私たちの耳に、リンの叫びに似た第二声が飛ぶ。
「リンだってカイト兄すきだもん! リンに言われたらだめ? やだ? リンのこときらいになった?」
「り、リン……お、おれ、そのっ!」
「リンだって、リンだってえ……っ」
 みるみるうちに、リンの涙腺は決壊した。
「カイト兄、ごめんなさあいっ……! きらいになっちゃやだよう……!」
「お、おれがリンのこと嫌いなわけないでしょ! むしろおれがっ」
 涙は、拭っても拭っても指の隙間からこぼれて、はたはたと床にしみを作っている。がばりと身を起こしたカイトは、転げそうになりながらリンに近寄っていく。すると廊下の向こうからどたどたと大仰な足音が聞こえ、カイトがリンの頭に手を置いたとき、足音の主であろうレンも姿を現した。
「おいカイトてめえ! リンのこと泣かすんじゃねえよ! リン、泣くなよ、な?」
「あ、あああ、リン、リン……! ほら、泣かないでっ……!」
 男2人が泣きじゃくるリンを囲んで、なんとか宥めてすかしている。そのリンの後ろから、今度は緑の頭が見えた。
「だから大丈夫って言ったでしょ、リンちゃん!」
 なんなのだ、この大集合状態。私はといえば、カイトと同じタイミングでソファから立ったはいいが、あっけにとられてものも言えずに立ち尽くしていた。ミクは顔を上げたリンに向かって、極上の笑みを浮かべると、私の方に向かってきた。
「ミク……」
「ほんっと、なにごとかと思ったよ! リンちゃんとレンくんが半ベソでミクの部屋に来るんだもん、リンちゃんは『カイト兄に嫌われてたらどうしよう』ってうじうじしてるし、レンくんはレンくんで『リンが元気にならねえ』っていってくるし」
「う、うっせえミク姉!」
「だって、レン……ひっく、それ、ほんとのこと、だし……っ」
「あのさ、リン、せめて泣くかけなすかどっちかにしてくれ……いや、泣かないでくれると嬉しいんだけど……ほら、鼻かんで」
 おねーちゃんに話したから、リンちゃんも落ち着いたかと思ったんだけどねー、と、ミクはカラカラと笑う。
「だから、もうおにーちゃんに直接言えばいいんだよ、って言ったけど、今度はお部屋におにーちゃんがいないし、レンくんと手分けしてお兄ちゃん探して、リンちゃんと一緒にこっち来てみればおにーちゃんも泣いてるし」
「み、見てたの?」
「ううん」
 見られていない、ときいて、胸をなでおろした。……なんで私が?
「ただ、扉の外までおにーちゃんの悲痛な声が聞こえてきたから、ああこりゃきっとおねーちゃんに縋りついて泣いていますな、とミクは結論づけました」
 ミクは鼻高々という風に、胸をそらして言い切った。カイトには悪いが、兄の威厳なんてあったもんじゃない話である。せめてもの救いは、泣いているところを妹たちに見られていないということくらいだろうか。
「……家族なのに、遠慮しすぎだよね」
 そうぽつりと言ったミクの顔が、微笑ましいものを見るような、それでも呆れの混じった微妙な表情をつくっている。いつものように括っていない髪の影が鼻先に落ちていて、ミクがすこしだけ大人びて見えた。
 が、それも一瞬のことで、ミクはいたずらっ子のような無邪気な笑顔で、カイトに駆け寄り、その後ろから盛大に抱きついた。
「お兄ちゃん、ミクもお兄ちゃんのことだいすきだよ! ね、レンくんもだよね!」
「はぁ? ……まあ、その、すきかきらいかって言ったら、すき、だけ、ど……」
「ミク、レン……」
 戸惑ったような顔で、こちらを振り向くカイト。ミクに抱きつかれ、リンを抱きかかえ、レンと同じ目線まで腰を落としている、家族思いの、ちょっとなさけない「お兄ちゃん」の姿がそこにある。自然と足がその一塊に向かう。先ほどカイトがリンにしたように、カイトの頭に手を乗せ、髪をくしゅくしゅと撫でる。

 だから言ったでしょ。あんたのこと、きらいなひとなんて、すくなくともここにはいないんだってば。

「ちょ、カイト兄、なんで泣いてんだよ!」
「あ、もしかして苦しかった!? ごめんねおにーちゃん!」
「カイト兄だいじょぶ? リンのティッシュあげよっか?」
「もう、カイトってば、ほんと泣き虫なんだから……」
 みんなして、カイトの顔を覗きこむ。カイトの腕が前に伸びて、子どもたちが3人、その胸に抱きこまれた。
「お、おにーちゃん?」
「ちょ、カイト兄! 鼻水つく! きたねえ!」
「カイト兄、ぎゅう強いよお!」
 とやかくいいながらも、3人の顔はまんざらでもなさそうで、カイトは子どもたちを抱きしめたまま、「ありがとう」と「ごめんね」、それに「だいすき」を繰り返していた。

「ところでおねーちゃん……」
「ん?」
 カイトのハグ攻撃から解放され、リンとレンが自室に戻り、カイトが二度目の風呂に入りに行ったとき、なにか企んでいる時の双子と、同じ目をしたミクが、こそりと耳打ちしてきた。
「ミク、安心したよ、やっとおねーちゃんも素直になったんだなあって」
「は? なにそれ?」
「ふふーん、誤魔化そうったって無駄無駄」
「だから、なんのことよ?」
「リンちゃんには聞こえてなかったかも知れないけど、ミクにはちゃあんと聞こえてましたからね! ……おねーちゃんがおにーちゃんに告白してるの」
 血が沸騰したかと思うくらい、体中が熱くなった。
 何を言っているのミク、たしかに言葉としてはそう聞こえてもおかしくなかったかもしれないけれど、あれはカイトが言ってほしいって言ったから言ってあげたってだけで、そうよ、言わせられただけなんだから、ミクが勘繰っているようなことはなんにもなくて、私としても他意はなくて――と、心の中では盛大な弁明が繰り広げられていたのだが、
「なっ……あれは!」
 声になったのは、「何を」の部分と「あれは」の部分だけだった。「何を」の部分に至っては、最初の一文字しか言えていない。我ながら、ちょっと情けない。
「おねーちゃん、はずかしがらなくてもいいよ! ミクとしては、もっと早くそういう関係になっててもおかしくないと思ってたんだから。まあ、あのヘタレのおにーちゃんと意地っ張りなおねーちゃんだから、おねーちゃんがデレないと進展はないと踏んでたけど、やっぱりその通りだったねー」
「そうじゃなくて、ミク……!」
「じゃ、ミク、もう寝るね! おやすみなさい、おねーちゃん!」
 ひとり納得して、爽やかに手を振り自室に引き上げていくミクを見て、私は、
「お、おやすみ……」
 とうとう、彼女の勘違いを正すことはできなかった。

 ……そんなわけで、この曲のPVにかんしては(少々誤解はのこったものの)、ひと段落決着はついた。
 けれど、この後、この曲のカバーにかんして、またも家族が大騒ぎすることになるのは、また別のお話。

1<< Fin. (C)KERO Hasunoha
******

>>恒例のなにか

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[ 2009/07/15 04:06 ] 小説系 | TB(0) | CM(0)

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