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オリジナル再録そのに(後編)! 

そんなわけで、下の記事の後編です。
相変わらずリト神から素敵絵を頂いております。

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名も無き、とある魔術師の物語――後編
******

 師匠の部屋に入るのははじめてだ。というより、この階段を降りること自体がはじめてだ。なにせ普段は何重にも鍵が掛けられているのだ(最先端の最も破られにくい錠は勿論、古代技術を応用した錠や、師匠が自作したであろう魔術錠などもあり、師匠いわく『ただのコソドロには絶対に開けられない扉』)。立ち入り禁止の場所にわざわざ近づいて、師匠の逆鱗に触れてはかなわない。しかし、いま、扉はこちらに開いている。階段は暗く、部屋から洩れる明かりが唯一の光源だった。その雰囲気が、何故だろう、とても気味の悪いものに思えて、俺はその扉の向こうに足を踏み入れるのが、不安でならなかった。
 長く感じる階段が終わった。
「魔法陣は踏むなよ。折角展開したものを壊されてはたまらん」
 部屋に入ると、まず目に入ったのが、大きな魔法陣だった。天井と床、四方の壁にあわせて6枚の魔法陣が描いてあり、それぞれがかすかな光を放っている。俺はユカの体が魔法陣に触れないように抱え直し、師匠の傍に寄る。
「見たこと無い魔法陣だ……」
「あたりまえだ。魔法学校じゃこんなモノは教えん」
 師匠は俺の背より高い棚を何やら漁っている。俺はユカを手近な椅子に凭せかけ、展開済みの魔法陣に近づいた。今まで見た魔法陣のどれとも違うが、けれど、どれにも似ている、という印象を受ける、不思議な魔法陣。更に近づいて、陣に描かれた文字を読み取ろうと試みた。
 魔法陣に描かれる“文字”というのは、殆どが古代語の表意文字(それ以外は、俗に言うテクニカルラングイッジ――つまりは魔術の専門用語)だ。魔法遣いなら特に意味を理解していなくても文字さえ書ければ陣の展開はできるが、高度魔術には詠唱も伴うため、それぞれの発音と意味を正確に理解していなければ、術の発動はおろか陣の展開すらできない。魔術師に高度な知識が要求されるのは、こういう高度魔術を多分に扱うことにもよる。
「読めるか?」
 俺は素直に首を横に振る。読めるどころか、見たことの無い文字ばかりだった。簡単な文字だけなら拾って読めるが、陣全体の意味はわからない。それこそ、基本四元素(火属性魔法元素、水属性魔法元素、風属性魔法元素、地属性魔法元素の4つ。他にも派生魔法素・複合魔法素が腐るほどあるけれど、説明は省く。説明している間に俺が腐る)くらいしか読み取れる文字が無かった。どんな高度魔術だ。
「読めなくて当然か。その魔法陣のランクは、上級のクラスS、段階は確か……5か6だったな。読めたら逆に僕が驚くところだ」
「はあ? なんですかそのデタラメな数字は!」
 師匠は、棚から取り出したナイフを検めながら、こともなげといった風にしている。
 魔法や魔術と呼ばれるものは、大きく下級、中級、上級の3つの『級』に分けられ、更にそれぞれの級の中でEからSの『クラス』に分かれている。そのクラスの中でも『段階(レヴェル)』があり、1~10まで分けられる。たとえば、最も発動の難しい魔術は「上級魔術のクラスS、段階10」と表す。だから、それから4、5段階下がっただけのこの魔術は相当強い術であり、使用禁止魔法――一般人が扱うには危険とされる超高次元魔法――だといえる。
「よし、これがいいな。……シア、下がれ」
 言われて、俺は魔法陣から離れる。
「これから僕は、この依頼人に自由を与える」
 呟くように言われた言葉に、何故か俺は恐怖を覚えた。

 魔法陣の中央に寝かされたユカ。陣中を見詰めて立つ師匠。その光景を眺める俺。
 異様だった。この雰囲気が。この無言の間が。何もかもがおかしいわけじゃなく、ただ日常に溶け込んだ異常さこそが――。
 師匠の口が僅かに動く。
「ルォ セイエーン サズル」
 “魔術行使”の“枕詞”。魔術詠唱は、必ずこの古代言語の三語から始まる。耳慣れた言葉も、師匠の口から聞こえると、全く別のもののように響いた。
「ロエナ カ ネシス オニヌ」
 詠唱が始まったようだ。発音を聞いても、俺には何を言っているのかさっぱりわからない。
 師匠のひとことひとことに、魔法陣が呼応する。空中に漂っている魔法素が、陣に取り込まれている証拠だ。相変わらず意味の取れない詠唱は続いていくが、ユカに目立った変化は無い。不安が押し寄せてくる感覚に、臓器がひっくり返りそうになる。一体、俺は何に対して、これほどまでの異常な不安を抱えている?
「――ロエンシス ローティア」
 二語の“接尾詞”が、言い放たれた。途端に、証明の洋灯(ランプ)が全て消え、部屋にある光は、魔法素を吸った魔法陣が放つ虹色の光だけになった。
「我、願い奉る」
 “接尾詞”が終わったのに、今度は古典語で詠唱をはじめる師匠。
「深淵の民、冥界の者よ。我がもとに姿現したまえ」
 部屋の闇が膨張するような圧迫感。そして、ユカの周囲に変化が起きた。――ユカの半身が、闇に飲み込まれるようにして、消えかけている。驚いて師匠を見る。しかしその瞳は、陣中の一点――ユカを見詰めて動かなかった。
「我が血の贄喰らいし契約の者、我が願いの前にその力貸したまわんことを」
 “血の贄”“契約”――この言葉には、覚えがあった。これは
「我、アンジェネイア・ローワヌム、切と願い奉らん――」
 これは、召喚の禁呪文――!

リト神から貰った!

「召喚。『グレムリン』」

 ぱしゃり、と何か液体の落ちるような音が聴こえた。
 魔法陣は一度大きく光を放ったのち即座に暗転し、その転換の疾(はや)さに目が痛んだが、しかし、俺はその明るくなった一瞬に、ユカが『召喚獣グレムリン』に『喰われる』のを見た。

 師匠が洋灯に火を入れると、6枚の魔法陣とともに、ユカも消えていた。俺は硬直して立ち尽くし、床の一点を見詰めたままだった。
「いま展開したのは、六面魔法陣という。まぁ、名前くらいは聞いたことがあるだろう。高等魔術――というか、召喚術の基本だ。大概の術者なら、三枚一度に開いただけで瀕死だがな。まぁ、相応の魔法素量と度胸があれば、契約自体はそれほど難しいことではない」
 いつもの口調で、師匠は言う。俺はといえば、まだ呆然と突っ立っている。正直、師匠の話は右から左に流れている。
「……あの依頼人のことが気になるか」
 俺は肯定を無言で返す。あの痛々しい笑みがよみがえる。
「どう、なったんですか。彼は」
「案ずるな。死んではいない。グレムリンの支配する闇に閉じ込められただけだ。グレムリンの気が済めば、解放されるだろう」
 人知を超えた次元で、闇を支配する『グレムリン』。術者が捧げる“血の贄”を糧として人間と“契約”する魔獣。契約者は、その力はおろか、その魔獣自体をも人為的に行使することができる。おとぎ話だ。そういう、伝説や伝承の類の。実在しない筈のもの――実在しない筈なのに。
「……それと、彼の『自由』に、何の関係があるんですか……!」
 怒りや悲しみ、その他の行き場を失った感情が、俺の声を震わせた。当然だ。彼の自由は、彼は、あんなものに喰われてしまった。
「お前には、基本的な相対概念が欠落している」
 呆れた、という風に、師匠は言う。
「求める自由を享受しうるには、それ相応の相対――つまり、不自由や拘束状態を体感しなければならない。だから僕は彼に『グレムリンの檻』という不自由を提供し、時が来れば僕の契約したグレムリンが彼を束縛から解放し、自由を与える。何か問題でもあるか?」
「でも彼は! こんなのを望んでいたんじゃない筈だ! これは、彼の望んだ自由じゃない!」
 じぶんが何を叫んでいるのか、混乱した頭では、ちゃんと把握しきれない。それでも声を荒げる俺に、師匠は冷ややかにこう言った。
「どうしてそうだとわかる?」
「どうしてって……!」
「他人の心を覗きでもしたか? できないことは無いが、もしそうなら僕はお前を裁判所まで送らねばならんぞ?」
「……!」
 言い返せない。言葉が溢れてきて、でもどれも上手に言葉にならない。
「ヒトにヒトの心を正確に理解することなどできん」
 そう言って師匠は、プリントの束を俺に放り投げる。ばさり、と床に落ちたそれを拾い、俺はぱらぱらと捲った。
「依頼人の学校から送られてきた依頼人についての調査報告だ。事前資料として素性をまとめて貰った。12枚目、開けてみろ」
 ぱらぱらと捲っていると、ユカの略歴が表になっているページがあった。隅にちいさく12とプリントされている。そのページの一箇所だけ、赤の太字になっている部分があった。
「依頼人――本名はユウカイアス・ヒースズバランデというらしいな。彼は集団暴行を受ける前、一度禁呪文を唱えている。とある教師を対象に、記憶改竄魔法を試みたようだ。もともと素養があったのだろう。禁呪を行う前にも、色々と派手なことをやらかしていたらしいな」
 師匠の言ったことは、本当だった。全部プリントに書いてある。ユカは、禁呪文を行使する前には、指導暦もかなりあるようだ。俺は愕然とした。
「まぁ、こどもが禁呪を唱えたところでたかが知れている。キャリーオーバーで術は失敗、効果は術者に跳ね返った。それ以来、彼は禁呪行使の記憶を失くし、それ以外にも断片的な記憶と、性格的な獰猛性、攻撃性も失った。ついでに、体内魔法素量も随分減ったようだな。キャリーオーバーが一時的に体内魔法素の絶対量を減らすことは知っているな?」
 知っている。伊達に俺も名門出身ではない。キャリーオーバーを起こして落ちぶれた魔術学校の同期を、何人も見てきた。
「ざっとだが、これが彼の略歴だ。シア。僕の言いたいことがわかるか?」
 そして俺は、今日何度目かの絶句を体験する。
「――彼は犯罪者だ」
 特に何の感情も込められていない声だった。
「記憶改竄は違法魔術。使用禁止魔法は、その成功不成功にかかわらず、行使しようとした時点で既に裁かれる運命にある」
 師匠は、俺の手からプリントの束を抜き取る。
「そして、それに手を下すのが、僕の役目だ」
「師匠……あなたは」
「僕は、政府直属の司法要職――罪刑執行官の任に就いている。お前も、刑の執行に立ち会った。国家機密に触れたということを忘れるな。政府からの扱いは、僕と同等になるから心して。ここのことを外部に漏らしたりすれば、どうなるかはわかるだろう」
 頭を打ったような衝撃があった。
 しかし、このことで、妙に頭が冴えた。
「……解せない点が、あります」
「何だ」
「ユカは、裁判をしたとか、罪を咎められたとか、そんなことは言っていません。調書にも、そんな記述はありませんでした。なのに、刑の執行など、下手をすれば、あなただって犯罪者の筈です」
「……ふん、すこしは頭が回るか」
 すこしだけおもしろそうに、師匠は微笑んだ。
「この依頼はあの少年からのものでもあるし、同時に政府からの依頼でもあった。つまり、先に魔術学校側から政府に届けがあったんだな」
「こんな不祥事です、報道されていてもおかしくないんじゃ」
「最後まで聞け。しかし、お前も知っているだろうが、あの魔術学校は相当有名だ。権力も有る。何よりあそこは国営魔術学校――財界著名人、政府関係者のご子息ご令嬢が多く在籍している場所だ。そんな場所の不祥事が公にされたら、どうなる?」
「あ……」
 今度は、とても満足そうに、師匠は笑った。
「政府関係者の地位が、ひいては政府自体――国が傾く」
 俺は、とんでもないひとに弟子入りしてしまった、そう気付いても、あとの祭りだ。
「じぶんの立場がわかったか?」
 ……わかりました。じぶんの状況はじゅうぶんに理解しました。要するに、
「ああ、そうだ。言い忘れていたが、今後は本名も無闇に名乗るなよ。いずれお前にも召喚技術を教える。本名は、できるだけ召喚の時にしか使うな。どこで機密に結びつくかわからん。それと、僕の研究室は自由に使って構わない。僕の私室に入らなければだが――入れないだろうがな。僕は何か食べてくる。鍵は適当にかけておけ」
 師匠は軽い足どりで階段を上がっていく。部屋にひとり残された俺は、笑いを堪えることができなかった。
 ……わかりました。じぶんの状況はじゅうぶんに理解しました。要するに、

 要するに、もういろいろ手遅れってコトでしょう?

TEXT:(C)KERO Hasunoha. PICT:(C)RIT Xybata.
******
あとがき。
肩凝りました。風呂入ってきます。
コメント・ツッコミ受付中です。なにか物申す! という方は、どうぞ
コメントに足跡残していってやって下さい。大喜びで懐きます(うわ
あ、誤字脱字の指摘も大歓迎ですー。

******

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[ 2006/08/05 22:57 ] 小説系 | TB(0) | CM(4)

えぇわー(´∀`*)

やっぱえぇなぁ、けろさんの文。

最後んとこのシアの手遅れ発言、大好き(ハァト



ランキングにぜひ一票入れたいんだが、携帯しか無いんで無理orz
[ 2006/08/05 23:56 ] [ 編集 ]

れす!

コメントありがとうございますw
アナログ版を知ってる人には、オチが弱い! と突っ込まれるかなとヒヤヒヤしてました(苦笑
シアの手遅れ発言を気に入ってくれてありがとうございます! 俺も結構好きでs(作者ああ!!
こんなに長いのを、しかも携帯で読んで下さって感謝の極みです!
いえ、ランキングの方は気にせず! というより俺も殆どランキング加入してたこと忘れt(ry
なにはともあれ、ありがとうございました!!m(_ _)m

さて今回、リト神の絵を作中挿入してみました。
結構俺的には冒険だったんですが、大丈夫、です……よね?>読者様及びリト神

誤字脱字表示等おかしいところあったら、引き続きコメントでおねがいしますー!
[ 2006/08/07 00:13 ] [ 編集 ]

ツッコミならぬツッコミ

とりあえず打ち込みご苦労様でした( ゜ー゜)ノ♪
こんだけの量を打ち込むのは相当骨だったと思います。
前にも一度読ませて頂きましたガ、
断片的にしか覚えてなくて(爆)
でも今回改めて読んでみて、
「そういえばこんな人だったなぁこの師匠は!」
とちょっとニヤけた場面、多々ありました(笑)
ケロ氏独特の世界観に久しぶりにどっぷり浸かれて面白かったっす( ̄ゝ)+
護持脱痔は私が読んだ限りでは見当たりませんでした。(単に私の言語能力が低下しただけかもしれませんがね(全くだ
これからの師匠と弟子のやり取りに期待しますv(プレッシャー)頑張って(о^ ^)b



[ 2006/08/07 01:23 ] [ 編集 ]

れすそのに!

コメントありがとうございますw
いえいえ、そりゃもう苦でしたよ(文法間違ってる
ワードに打ち込んで修正しながら加筆して、かなりの時間を喰ってしまいました;
告知は6月くらいからしてたのにね。
あ、断片的にでも憶えていて頂いてうれしいですー。
わざわざ誤字まで探して貰って、感謝感謝ですm(_ _)m
ありがとうございました!

引き続きコメント募集中ですー!!
[ 2006/08/08 13:06 ] [ 編集 ]

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