姉と弟! 

管理人はブラザーコンプレックスです(言い切った!

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036:きょうだい――文字書きさんに100のお題より
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 昔から、俺たちきょうだいは、美術方面にあまり秀でた評価を貰ったためしが無い。
 でも、別段気にした風は無く、俺たちはいままでを過ごしてきた。
 俺にいわせれば、ねえちゃん(俺はずっとまえから自分の姉をちゃん付けして呼んでいる)には絵画表現できない分を補って余りある文章能力があったし、ねえちゃんにいわせれば俺は絵画表現が破滅的でも、その身体性で何とか生きていける(つまり、ゼスチュアがわかりやすいといいたかったらしい)そうだ。
 ちなみに、俺たちは自分たちの言語能力もあまり当てにしていない。よくいえば寡黙、わるくいえば口下手なのだ。ねえちゃんは文章能力があるのに、なぜこうも会話になると駄目になるのだろうと思う。当のねえちゃんにいわせれば、俺が会話に四苦八苦しているのを見て、行動の方がわかりやすいのにどうして会話にこだわるのか疑問らしい。
 でも、別段気にした風は無く、俺たちはいままでコミュニケーションを成り立たせてきた。

 ねえちゃんとメールするのは月にいちどあるかないか。遣り取りも、多くて2、3通。一方通行同士になることもしょっちゅうだ。たとえば。
「明日そっち行く」
「何時?」
「午前中」
 これで終わり。午前中が何時を指すのか、ねえちゃんは特に言及しない。勝手に10時だと思っているかも知れないし、12時ぎりぎりだと高を括っているかも知れないけれど、これくらいの情報で、俺たちは明日の約束が出来てしまう。
 電話することなど、何かの天変地異が起きるくらいの確率でしか起こらない出来事だ。たとえば、珍しくねえちゃんから携帯に電話がかかってきたことがあった。夏の終わりの昼下がり、たしか俺は近くのコンビニからアイスを買って家に帰るところだった。着信音に気付いて、携帯のフリップを開けると、そこには紛れもないねえちゃんの名前が浮かんでいて(俺は親類――親を含めて――のアドレスも、全部フルネームで登録している。じゃないと、ほんとうに名前を忘れる気がする)、びっくりした俺は、こともあろうに、電話を切ってしまった。故意ではなかった筈だけれど、通話終了ボタンを押していたのは、やっぱり自分の親指だった(それを確認した所で、何の意味があったのか、今になってもさっぱりわからない)。30分後に、またねえちゃんから電話がかかってきた。今度は、ちゃんとボタンを押し間違えないように、出た。
 ねえちゃんは開口一番、むすっとした声で言った。
「さっき何で電話切ったのさ」
「ごめん、びっくりして」
「あ、そう」
「何か用?」
「あ? 別に、リダイヤル押し間違えただけ」
 通話終了。通話時間、23秒。一体何のための電話だったのか、今になってもさっぱりわからない。

 とにかく、そんなふうに不器用なコミュニケーションしかできない俺たちは、今、美術館に来ている。何度も言うが、昔から俺たちきょうだいは、美術方面にあまり秀でた評価を貰ったためしが無い。
 しかし、絵についての鑑賞眼・審美眼は肥えているようで(俺たちは幼少の頃、母親が暇になると動物園や水族館、博物館や美術館に連れまわされた。俺は美術館が苦手だったが、ねえちゃんは博物館が苦手だったらしかった)、絵画展のパンフレット片手にこの作者にしてはああだのこうだの、この絵画は色使いがどうだの、絵の描かれた時代背景や歴史――もっとも、ねえちゃんはあまり歴史の話が得意ではないが――を話題に話ができる。
 久し振りに会って、それでも学校はどうだとか一人暮らしは慣れたかとか、そんな話は微塵もしない。館内を一回りして、適当な椅子に座り、缶コーヒーと缶ココアを飲みながら(前者はねえちゃん、後者は俺だ)、印象派の画家たちについて語り合ったり、モネの黄緑色の使い方について議論を戦わせたり、そんなことをして小一時間。
「そろそろ何かたべに行こうか。何にする?」
「蕎麦がたべたい」
「じゃあうどんにしようか」
 一体何のための会話なのかさっぱりわからない。
 うどんをたべられるようなお店を探しながらの道中でも、今日の絵画展はこの間のものと比べてどうだったとか、そういえば別の市で面白そうな展示が開かれる予定だとかいう話をしながら、結局店は見つからず、入ったのはラーメン屋だった(そして払いは何故か割り勘だった。ねえちゃんの方がたくさんたべたのに不公平だ)。
 店から出てから、じゃあ明日も忙しいからかえるね、とねえちゃんは言い、俺もそろそろ遊んでいる場合ではなかったことを思い出し、その場でねえちゃんとは別れた。

 一体何のために美術館に行ったのかさっぱりわからない。
 それでも、別段気にした風は無く、俺たちはこれからも過ごしていく。

(C)KERO Hasunoha
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あとがき。

こんなふうに弟を連れまわせる姉になりたいです。しかし現実的に言って、
ウチの弟がこんなふうにのこのこと連れまわされるとは思えません。

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[ 2007/05/01 23:18 ] 小説系 | TB(0) | CM(2)

ノンフィクションかと思ってしまいました。
(ぁ)

なんかこういう兄弟っていいですね。
どことなく不器用だけどほほえましい。他愛無いやりとりが、なんでもない日常こそが本当に面白くて仕方がない。
そんな兄弟は憧れです。
[ 2007/05/02 18:59 ] [ 編集 ]

れす!

コメントありがとうございますー!

ほんと、ノンフィクションだったら良かったのに(ぁ
残念ながら、だったらいいなの妄想でしかありません。姉貴には弟を連れまわす余裕も
やる気もないし(結局出不精)、弟だって連れまわされる気も余裕もないと思われます。あーあ。
でも、いつかこういう1日を送ってみたいと思います(無理かな(無理だな
憧れ抱いてもらってありがとうございます(*ノノ)
[ 2007/05/04 16:02 ] [ 編集 ]

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